2017 Fiscal Year Research-status Report
近代立憲主義における他者の不在の克服-全体性と無限を通じた公共性の再編
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16K16982
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
江藤 祥平 上智大学, 法学部, 准教授 (90609124)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 立憲主義 / 他者 / 公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、立憲主義における他者性の不在を克服する一つの視座として、全体性という概念に着目し、その意義を明らかにすることに注力した。全体性とは、自己と他者を共通の視線の下に統合する意味的存在のことをいう。この全体性の観念は、個人の尊重の観念を脅かすおそれがあるため、西洋・日本を問わず、憲法学では忌避される傾向にあった。しかし、他者性の観念が立憲主義の原動力であることが昨年度の研究でわかった今、自己と他者を包摂する全体性の契機の解明に向かうことは必然的な営みといえる。 具体的には、尾高朝雄の「ノモス主権論」とロバート・カヴァーの「ノモスとナラティヴ」という二つの研究を素材として、全体性の概念の探求を試みた。ノモス主権論は、主権が正しい統治意思の理念にあるとする議論であるが、この議論は戦後間もなく天皇制に傾斜しすぎていることを理由に憲法学によって糾弾された。しかし、研究の結果、このノモス主権論は、実力をも規律する意味作用を高次に想定することで、立憲化を実現しようとするものであることが明らかにされた。もっとも、ノモス主権論は、個人の自由の場所を確保しえず、全体化の作用によって他者性が抹消される危険があることが明らかになった。 そこで、尾高の欠点を克服する議論として、カヴァーの研究が参照された。そこでは、物語という装置を導入することで、全体化の作用に服すことなく多元性を確保する道が模索された。ノモスの多元性は、従来の憲法学でも善の多様性として承認されてきたが、従来は正義の善に対する優位によって、ノモスは劣勢を強いられていた。しかし、意味こそが人間の生きる源泉にあるとすれば、むしろ善を招き入れる方法論が探求されなければならないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、全体性の観念を探求することが目的であったが、尾高朝雄の「ノモス主権論」およびロバート・カヴァーの「ノモスとナラティヴ」の研究の意義を明らかにすることを通じて、おおむねその目的を達成することができたといえる。具体的には、大学の紀要誌および商業誌にその成果をまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、研究計画に従い、無限性の観念の意義を明らかにすることに努める。この無限性の観念の探求は、これまでにない困難を極めることが予想される。なぜなら、そもそも無限なるものは、言語哲学において語りえぬものとされていることからもわかるように、従来の憲法学のジャーゴンでは語りえないレベルに位置しているからである。もっとも、憲法学においても無限性を希求する贖罪論の議論の蓄積があり、この議論を深めることを通じて、無限性の観念を明らかにし、公共性への足掛かりとできるものと信じる。
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Causes of Carryover |
(理由) 残額が生じたのは、初期費用として計上していた電子機器類の購入を本年度も昨年度と同様に控えたためである。また、本年度は研究成果を公表することに注力したため、研究成果の発信のための海外出張や海外の学会参加についても、見送った経緯がある。 (使用計画) 本研究のために収集した資料類は膨大に上るため、それをとりまとめるための電子機器類を購入する予定である。また、研究成果にまとまりができてきたために、積極的に国内・海外出張を通して発信し、フィードバックにつなげられればと考えている。
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