2017 Fiscal Year Research-status Report
「近世自然法論」のもう一つの戦線:宗教的磁場の下の主権・自由とヒストリオグラフィ
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16K16983
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福岡 安都子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80323624)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | グロティウス / ホッブズ / スピノザ / フベルス / 宗教と法 / 主権論 / 自然法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
初期近代における主権と自由の関係という問題を論じる上で旧約聖書を介した法・政治論が持つ重要性については、エリック・ネルソンの業績を代表に国際的研究動向の中で関心の伸びが近年顕著なところである。これについて、モーセを媒介とした契約というトポスを中心に、その自然契約論との交錯の有様を検討した。これを通じ、特に、ネルソンによるヒストリオグラフィーの中で整合的な位置付けを与えられていたとは言い難かったスピノザについて、グロティウスらレモンストラント派やホッブズからなる座標軸を設定し、この中で、スピノザ『神学・政治論』の歴史的位置付けに関し問題提起をすることができたように思われる。 その他、現時点までの研究結果は、英語単著、The Sovereign and the Prophets: Spinoza on Grotian and Hobbesian Biblical Argumentationとして、国際学術出版大手のKoninklijke Brill (オランダ王立ブリル社) よりピア・レヴューを経て出版した。本書は、それぞれ近代自然法論の代表者として知られてきたグロティウス、ホッブズ、スピノザにつき、彼らが、国家と個人との関係・主権と自由の関係がどのようにあるべきかというテーマを巡り、旧約世界のヘブライ人の政治機構を論争的な媒介項として同時代人と高度で複雑な対話を行っていることを、歴史的文脈に即して分析することを試みるものである。これを通じ、従前、自然法論の後景に隠れがちであったグロティウスやホッブズ、スピノザのexegetistとしての別の顔に光を当てることができ、またウルリクス・フベルスによる批判をそれらと対照させることを通じて、人権の歴史の新たな理解にも繋がり得る視座が得られたように思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上に触れたネルソンの業績とスピノザ理解の点に加え、例えばイェリネックの業績を、"オランダのプーフェンドルフ"ウルリクス・フベルスの萌芽的的人権論の位置付けに役立てることができた。なお果たすべき課題は多いが、暫定的な形でも国際的発信を目指した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、地道な史料調査と文献講読を進めるほか、視座を広げるため、関連研究者の批判を仰ぎ、意見交換を行っていくことを重視したい。
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Research Products
(2 results)