2018 Fiscal Year Research-status Report
「近世自然法論」のもう一つの戦線:宗教的磁場の下の主権・自由とヒストリオグラフィ
Project/Area Number |
16K16983
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福岡 安都子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80323624)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ウルリクス・フベルス / コンスタンティヌス大帝 / フーゴー・グロティウス / トマス・ホッブズ / ベネディクト・スピノザ / 公法史 |
Outline of Annual Research Achievements |
オランダの自然法的公法学者ウルリクス・フベルス(1636-1694)が、ローマ帝国皇帝コンスタンティヌスの教会政策について論じるところを取り上げ、分析を行った。フベルスは、公法学が政治学とは区別された一個の学問として自立することに貢献した法学者である。フベルスがコンスタンティヌス大帝について行う議論は、一見、単なる衒学趣味に見えて、実際には、その時代の国家と宗教を巡る緊張状況という文脈の中に位置している。何気ないコメントの背後に、同時代の論者との「対抗関係」が隠されているのである。それらを地道に洗い出す作業となった。成果は英語論文の形にまとめ、現在、共著論文集として出版準備中である。 また、7月1日・2日にハイファ大で開催されたNetherlands Israel Spinoza Seminarに招待され、The Tractatus theologico-politicus and Dutch Debates on the Church-State Relationship(オランダにおける国家・教会関係論と神学・政治論)をテーマに報告を行った。 さらに、長期休暇期間を利用してドイツやオランダの学術図書館で資料(史料)収集を行った。発見した新規史料の一部は、既に上記論文及び報告に反映させたところである。また、世俗化論や神学/政治論に係る近年のヒストリオグラフィーについても、こうした資料調査や上記の国際学会参加を通じ、萌芽的ではあるが新たな視野を得ることができたように感じる。同時に、平成28年度実績報告でも触れた「研究者自身のcontext」という問題意識から、また、上記のような史料研究を現在の法学研究へと架橋していくという関心から、通史的俯瞰図を得る必要を痛感し、特に、イェリネックやシュミットが属し、我が国の公法学とも関係の深いドイツ公法史の流れについて、研究を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初期近代の主権概念・自由概念が宗教的磁場の下でどのように発展したのかを史料に即して跡付けるという作業は、教務・公務等で多忙な中なりに順調に進展しており、特に本年度は、英語論文集への寄稿や国際学会での報告といった貴重な機会に恵まれた。
|
Strategy for Future Research Activity |
以上のように進捗状況はおおむね順調であると言えるが、慢心せずに研究に従事することを目指す。プロジェクト最終年度として、「あれも、これも」と望む気持ちと、学術成果として求められる「硬度」との間で、適切な調和点を見つけていきたい。
|
Causes of Carryover |
2018年度初め、同年7月のNetherlands Israel Spinoza Seminarで学会報告の招待を受け、本プロジェクトの推進に大きく資するものとして参加を行った。このため、本プロジェクト開始時には予定していなかったハイファ大学への旅費が追加的に生じることになり、結果として、13万円弱の赤字執行の状態となったことから、前倒し支払請求(10万円単位)の制度を利用することで対応した。この10万円単位で運用される前倒し支払請求から、上記赤字執行分を差し引いた額を、次年度の使用のために繰り越した結果が、本件の「次年度使用額」である。その意味で当該「次年度使用額」は、本来的には次年度(2019年度)に使用すべき額であるため、当初の予定どおり、旅費や物品費等に当てるつもりである。
|
Research Products
(4 results)