2016 Fiscal Year Research-status Report
イギリスの憎悪扇動表現規制判例における表現の自由の保障範囲の在り方
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16K16986
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村上 玲 大阪大学, 法学研究科, 招へい研究員 (80774215)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 表現の自由 / 憎悪扇動表現 / 欧州人権裁判所 / 欧州人権条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はイギリスの憎悪扇動表現規制に関する判例を題材に、現状、EU、欧州人権条約及び欧州人権裁判所の加盟国であるイギリスの国内裁判所がヨーロッパの影響を受けつつ、表現の自由として保障される表現と違法な表現として認定される表現との境界を示す判断基準をどのように確定しているかを究明しようとするものである。 本年は上記目的に従い、まず、憎悪扇動表現に関するイギリス及び欧州人権裁判所判例の収集を行った。 次に、憎悪扇動表現に関する欧州人権裁判所判例の整理を行った。欧州人権条約は10条において表現の自由を保障するとともに17条において条約が保障する権利の濫用を禁止している。このため、欧州人権裁判所においては、憎悪扇動表現に類する表現に対して、まず、条約が追求する価値と相いれない表現や、条約が保障する権利の破壊を意図して表現の自由に依拠しようとするものについては、権利濫用として条約17条に基づき、欧州人権裁判所への申立てを不受理としている。次に、権利濫用に該当しない表現については申立を受理したうえで、当該表現が公共の利害に関わるものであるか否か、公の議論に貢献するものであるか否かなどに重点が当てられ、当該表現に対してなされた干渉が民主的社会において必要であったかという基準に基づき判断されている。近年の欧州人権裁判所判決を見るに、当該表現の当時国内における位置づけを丹念に検討する傾向があり、そこでは、当該表現が緊張した政治的・社会的背景に対してなされたものであるか、公正かつ幅広い文脈から検討した場合に当該表現が直接的又は間接的に暴力を喚起するとみなせるか否か等に基づき判断していることがうかがえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年は欧州人権裁判所判例の検討と、イギリスの憎悪扇動表現を規制する1998年の公共秩序法の各種条文制定時の議論の検討を主として行った。このため、イギリスの国内判例の分析ができておらず、研究の進捗状況を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、イギリス国内裁判所判例の分析に注力する。次に並行して欧州人権裁判所判例の動向及びイギリス国内法の動向に注視する。
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Causes of Carryover |
本年度は研究環境を構築するため、研究資材の購入を主に行った。平成29年度に海外聞き取り調査を予定しており、聞き取り先を増やす予定であることから、当該調査に充当するために予算消化を行わなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に生じた次年度使用額については、平成29年度に予定している海外聞き取り調査費用に充当する予定である。
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