2017 Fiscal Year Research-status Report
イギリスの憎悪扇動表現規制判例における表現の自由の保障範囲の在り方
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16K16986
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Research Institution | Shukutoku University |
Principal Investigator |
村上 玲 淑徳大学, コミュニティ政策学部, 助教 (80774215)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 憎悪扇動表現 / イギリス / ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
イギリスの憎悪扇動表現規制における表現の自由の保障範囲の在り方に関する検討の一部として、平成29年度はイギリス(イギリスはイングランド及びウェールズ、スコットランド、北部アイルランドごとに議会があり、法制度が異なるため、ここでのイギリスはイングランド及びウェールズを指すものとする。)の憎悪扇動表現規制のうち、性的指向に基づく憎悪扇動罪に焦点を当て、検討した。また、現在の欧州における憎悪扇動表現の現状について確認すべく、欧州大陸の研究協力者に対し聞取り調査を行った。 まず、イギリスの性的指向に基づく差別憎悪扇動罪については、制定時、性的少数者に対する差別の是正という見解と宗教的表現の自由の維持という見解の対立が存在し、これらの対立を調整する形で同罪が制定されていることが明らかになった。これは、イギリスと比較して同性愛者をめぐる環境と宗教観において著しい差異が認められる我が国においても、なお表現に関する問題の行き着く先に宗教教義や宗教活動の自由との衝突が存在することを示し、その両立の仕方に関して示唆を与えるものであった。 次に、ウィーンのEU基本権庁に所属し、ヘイトクライム問題について取り組んでいる専門家、アムステルダム大学の表現の自由を主とする欧州人権法制研究者、ヴュルツブルク大学の刑法及び情報法の教授、マインツ大学の憲法及び情報法の教授に対し聞取り調査を実施した。同調査では、ドイツでインターネット上の憎悪扇動表現規制法が新しく制定されたことを受け、同法を念頭に、インターネット上の憎悪扇動表現規制に関する見解を中心に聞き取りを行った。聞取りにおいて、インターネット上の名誉毀損表現に関する欧州人権裁判所の重要判決について、同判決の枠組みが憎悪扇動表現にも射程が及ぶとの示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
憎悪扇動表現に関するヨーロッパの判例分析についてはほぼフォローできている状態にあるのに対し、イギリスの判例分析が遅れているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、ヨーロッパとの比較を行うため、イギリスの研究協力者に対し、イギリスの憎悪扇動表現規制の現状について聞取り調査を実施する予定である。この準備と並行して、現在遅れているイギリスの判例分析に注力する。
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Causes of Carryover |
本年度はヨーロッパ3か国4名に対して聞取り調査を実施した。これについて、(1)ドイツ語通訳として、現地研究協力者の協力を得たことにより旅費の支出が増えた、(2)聞取り先の確定まで時間を要したこと及び航空券の燃油サーチャージの増額が発表されていた、という2つの理由により当該年度の交付研究費では旅費の不足が懸念されたため、研究費の前倒し請求を行った。2018年度も海外聞き取り調査を予定しているため、旅費の節約に努めた結果、前倒し請求分の研究費を一部使用したが、残が出た次第である。
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