2016 Fiscal Year Research-status Report
日米比較法研究による知的財産権取引課税における「租税法と私法」論の有用性の検証
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16K16987
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
谷口 智紀 島根大学, 法文学部, 准教授 (50634432)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 租税法 / 知的財産法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アメリカ租税法との比較法研究に示唆を得て、知的財産権取引をめぐる課税問題のうち、租税法と知的財産法の関係の問題、とりわけ、知的財産法領域の議論が租税法領域にいかなる影響を及ぼすのかを検証することにある。 知的財産を利用した租税回避に対する新たな対抗策の研究を通して、知的財産訴訟における租税法上の移転価格の証拠としての有用性を検討した。具体的には、知的財産訴訟のうち特許訴訟、とりわけ特許侵害に対する損害賠償額の算定方法について概観すると、特許侵害に対する損害賠償額と移転価格とには高い関連性があった。 知的財産取引に係る人工的な低い移転価格が、知的財産訴訟における当該知的財産の価値判断に影響することにより、多国籍企業は所有する知的財産に対して十分な法的保護を受けることができなくなるおそれがある。多国籍企業は低い移転価格を選択することのリスクを回避するために、本来あるべき移転価格を設定することになる。結果として、知的財産訴訟における証拠開示手続による確定申告書と鑑定文書の開示は、多国籍企業による知的財産を利用した租税回避に対する対抗策となる。 知的財産訴訟における租税法上の移転価格の証拠としての有用性の検証を通して、とりわけ、特許侵害に対する損害賠償額と移転価格には高い関連性があることから、移転価格が損害賠償額の算定におけるデータとして活用されるべきである。 以上のとおり紹介した知的財産を利用した租税回避に対する新たな対抗策は、多様化、複雑化する租税回避に対する抜本的な解決方法を提示しているとはいえないが、租税回避が横行する現状に対する一定の歯止めとなる、と明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
知的財産法領域の議論が租税法領域にいかなる影響を及ぼすのかを明らかにするために、知的財産を利用した租税回避に焦点を当てて研究を進めた。 我が国の知的財産権取引課税の現状を整理・検討した。アメリカ租税法との比較法研究に示唆を得るための前提となる、アメリカにおける知的財産を利用した租税回避に対する新たな対抗策を検討した。とりわけ特許侵害に対する損害賠償額の算定方法めぐって、特許侵害に対する損害賠償額と移転価格とには高い関連性があることが明らかになった。 今後は最新のアメリカ租税法の研究を踏まえて、租税法と知的財産法の関係がいかに理解されるべきかをさらに検証したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、知的財産権の保護を重視するアメリカとの比較法研究に示唆を得て、合理的かつ客観的な問題解決のあり方を研究する。 具体的には、知的財産取引に対する課税問題については毎年度、多くの優れた論文が発表されていることから、引き続き文献収集を行う。 アメリカでの現地調査を行う。アメリカでは租税法と知的財産法の関係がいかに理解されているのかについてのインタビューを実施するとともに、大学図書館等にて、比較法研究のためのアメリカ租税法及び知的財産法に関する文献収集を行う。 アメリカ租税法との比較法研究に示唆を得て導出できた結論(租税法律関係における租税法と知的財産法の関係、租税法が知的財産法の議論をいかに受容すべきか、知的財産権取引の課税問題に対する具体的な問題解決のあり方)について、論文発表や学会報告等を行い、最終的な研究成果をまとめあげる。
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Causes of Carryover |
東京における学会発表の順番待ちにより発表の機会を得ることができなかったこと、東京にて3月にアメリカ現地調査に関する研究打合せを行う予定であったが先方の都合により延期になってしまったことにより、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
東京における学会発表、あるいは他学会での発表を行う。アメリカ現地調査に関する研究打合せは別日程にて行うことを予定している。
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