2016 Fiscal Year Research-status Report
海洋安全保障と国連海洋法条約体制――係争海域における国家の権利義務を中心に
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16K16999
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Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
石井 由梨佳 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 人文社会科学群, 講師 (80582890)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際法 / 海洋法 / 海洋安全保障 / 信頼醸成措置 / 係争海域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は係争海域における国家の権利義務の内実と外延を、理論的、かつ、実証的に検討することを目的とするものである。とりわけ、係争海域において、係争当事国が一方的に海洋利用を行う場合に、いかなる制約が国際法上当該国に課せられるのかを中心に研究を行うことを狙いとする。本研究は従来の海洋法理論の限界を踏まえた上で、これまでの実証研究で十分に解明されてこなかった、途上国間における係争海域紛争の精緻な事例研究を行うことによって、国連海洋法条約体制についての新たな展望のための基礎を提供するものである。 研究計画の段階では(1)海洋安全保障と国連海洋法条約との関係を理論的に基礎づけた上で、(2)係争海域における自制義務の国際法上の基盤、その具体的内実と外延、及び、時間的、地理的適用範囲を明らかにすることを狙いとしていた。 実証研究における調査対象としては、必ずしも海洋利用国ではなく、先行研究でも十分な注意が払われてきたわけではなかったが、係争海域を有し、一定の先例価値がある諸国家の国家実行を検討する。具体的には、南シナ海、カリブ海、ペルシャ湾、カスピ海、トルコ・ギリシャ間海域、インドネシア・マレーシア間海域、インド・パキスタン間海域、ガイアナ・スリナム間海域を巡る沿岸国の海洋利用を少なくともその対象に含めるとしていた。 平成28年度は、特に南シナ海の各沿岸国について、各国関連法令の制定過程、その趣旨目的、制定を主導した国内の政治動態や社会的背景、制定後の運用過程、実施のメカニズム等を調査した。またトルコ・ギリシャ間、及び、インドネシア・マレーシア間には、海上信頼醸成措置の一環として行動規範合意が締結されていることから、その締結の経緯や権利義務の射程についても調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、研究計画の段階では(1)海洋安全保障と国連海洋法条約との関係を理論的に基礎づけた上で、(2)係争海域における自制義務の国際法上の基盤、その具体的内実と外延、及び、時間的、地理的適用範囲を明らかにすることを狙いとしていた。今年度は概ね、研究計画で示した通りのスケジュールで調査を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
実証研究と並行して、海洋安全保障の法的地位付けに関する基礎理論も検証する。海洋安全保障は今日の国際関係を基礎づける重要な要素であるが、それが海洋法上の国家の権利義務にどのような影響を与えるのかは学術的に十分に明らかにされていない。1982年の国連海洋法条約には、海洋の平和的利用義務を定める以上に安全保障に関する具体的な規定は置かれていない。これは、米国、英国、ソ連などの海軍保有国が、自国の軍事的利益を確保するために、安全保障の問題を、海洋法に関する一般条約で定めることに反対したためである。 他方で、同条約で機能的水域である排他的経済水域(EEZ)の設定が認められたことを契機にして、EEZにおける権益を根拠にして沿岸国が安全保障上の活動を行うことができるする国家が出ている。しかし、条約は沿岸国に軍事的利益に関する権能は与えておらず安全保障は現行の海洋法秩序に馴染まない要素を含んでいる。従って、一般海洋法がそのような軍事的利益に関してどのような規則を提供しているのか、また、安全保障上の利益が海洋法秩序にいかなる変化をもたらしうるものであるかは、慎重に吟味されなくてはならない。そこで平成29年度では、既存の先行研究の意義と限界を踏まえつつ、係争海域と海洋安全保障の関係について、新しい展望を示すことを試みる。
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Causes of Carryover |
残額が55000円程度と僅少であったので次年度に回すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、引き続き研究を遂行するとともに、これまでの研究成果を総括し、公刊するための論文執筆に当てる予定である。また、各種の研究会やワークショップ、学会などにおいて、本研究の成果を公表していくことを予定している。
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