2016 Fiscal Year Research-status Report
合理的配慮に関する理論的・実態的研究-合理的配慮概念の拡大可能性を視野に入れて
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16K17001
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
長谷川 珠子 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40614318)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 合理的配慮 / 障害者雇用 / 差別禁止 / 特例子会社 / 障害者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、①障害者雇用促進法が事業主に求める「合理的配慮」の具体的内容について検討することと、②合理的配慮概念が、障害者だけでなく女性、非正規、高齢の労働者にも拡大可能かどうかを明らかにすることにある。 初年度である2016年度は、①について、合理的配慮に関する裁判例の分析や(「発達障害者に対する『合理的配慮』と退職取扱の有効性-日本電気事件東京地判平成27・7・29労判1124号5頁」ジュリスト1503号119頁)、障害者雇用促進法を分かりやすく解説するための論文の発表(「これからの障害者雇用‐改正のポイントと実務対応(1)~(5)」週刊経団連タイムス3277号4頁、3278号4頁、3279号6頁、3280号5頁、3281号5頁)や、講演を行った(全国重度障害者雇用事業所協議会東北ブロック会議や福島地方裁判所等での講演)。さらに、障害者雇用を積極的に進める企業(スミセイハーモニー、エルアイ武田、第一生命チャレンジド、クレハ、ハニーズ等)におけるヒアリングを行うとともに、特例子会社及び親会社(トヨタ、JR東海、中部電力、デンソー)の人事担当者とともに勉強会(2017年3月)を開催し、合理的配慮等に関連して現場で具体的に問題となっている事柄についての意見交換を行った。 ②については、育児休業や短時間勤務による不昇給・昇給抑制の適法性を判断した裁判例の分析(社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会事件ほか」法学教室436号24-28頁)や、そもそも労働者には働く権利(就労請求権)があるのかといった論点の分析(「就労請求権‐読売新聞社事件」判例百選50-51頁)を通して、検討を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、初年度(2016年度)にアメリカに出張し、ヒアリングを行う予定としていたが、年度初めにその予定を2017年度に変更することとし、2016年度は共同研究者として参加している、別の科研費研究ではあるが、本研究と密接に関わりをもつ研究(「障害者差別禁止法理の福祉的就労への影響-ソフト・ローからのアプローチ-」)との関係で、フランス及びイタリアでの調査研究を行った(障害者を多数雇用する企業や福祉的就労事業所(イタリアの社会的協同組合とフランスの適応企業)、日本の公共職業安定所類似の公的機関、労働法学者への訪問等)。これにより、アメリカで訪問すべき場所やヒアリングすべき内容等がより明確なものとなったと考えている。 上述したように、国内企業へのヒアリングは順調に進んでおり、また、企業の担当者が多数集まる研究会(障害と多様な仕事の在り方研究会)へもほぼ毎回参加(3、4か月に1回)し、情報交換を行うとともに、2017年度以降のヒアリング先として時期を調整しているところである。 国内研究会に参加しての報告及び研究成果の公表についても、別で示すように、多数の論文・図書を刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、【研究実績の概要】で示した①申請者が行ってきた「障害者に対する合理的配慮」に関する理論的研究を、法施行後の企業の対応や障害者のニーズを踏まえ、理論面と実態面の双方から検討することと、②合理的配慮概念が、障害者雇用の分野だけでなく、多様な働き方の実現や労働者の健康の維持・確保にとっても有効に機能する可能性を探ることであるところ、①について、2017年度にアメリカでの調査を予定している。アメリカでは、合理的配慮の実態を知るため、企業等を訪問し、ヒアリング調査を行うとともに、合理的配慮に関するガイドラインを作成するEEOC(雇用機会均等委員会)を訪問し、企業や障害者からどのような相談内容があるのか、合理的配慮に関する紛争としてはどのようなものがあるのかについて聞き取りを行う予定である。これに加え、国内企業における調査も引き続き行う。障害者の就労継続支援A型事業所を設立し、これをグループ適用の中に入れることにより、当該グループ全体の雇用率のカウントに当たり、A型事業所で働く障害者をカウントすることができる仕組みがあることを、「障害と多様な仕事の在り方研究会」の中で聞いた。この枠組みは様々な問題と可能性を含むものと捉えており、2017年度はこの制度を取り入れた企業へのヒアリング調査を行いたいと考えている。これらの実態調査に加え、ここ1年で多数発行された文献を読み、合理的配慮についての理論的検討も併せて行う。 研究目的②についても、企業での取り組み事例をヒアリングするとともに、裁判例の分析や各種の文献の調査・分析を引き続き進める予定である。
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Causes of Carryover |
2016年度にアメリカでのヒアリング調査を行う予定であったが、その予定を2年目の2017年度に変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度は、アメリカでのヒアリング調査を行うため、旅費としてその多くを支出する予定である。
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Research Products
(10 results)