2017 Fiscal Year Research-status Report
合理的配慮に関する理論的・実態的研究-合理的配慮概念の拡大可能性を視野に入れて
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16K17001
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
長谷川 珠子 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40614318)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 合理的配慮 / 障害者雇用 / 差別禁止 / 特例子会社 / 障害者 / アメリカ / ADA / 障害をもつアメリカ人法 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本では、2013年に障害者雇用促進法が改正され、障害者に対する差別の禁止と「合理的配慮の提供義務」が使用者に課せられることになった。しかし、これらの概念(特に合理的配慮)は、新たに日本に持ち込まれたものであり、必ずしもその中身が明確となっていない。そこで本研究では、障害を持つアメリカ人法(ADA)を1990年に制定し、その後議論の蓄積を重ねてきたアメリカの議論等を参考に、障害者雇用促進法が事業主に求める合理的配慮の具体的内容について明らかにすることが第1の目的である。 第1の目的について、2013年の改正後、2016年と2018年に段階的に施行された障害者雇用促進法について、その改正内容等に関する研究を行った。その研究成果として、障害者雇用促進法を解説した『詳説障害者雇用促進法』(弘文堂)の編者となり、2016年刊行の第1版に続いて、増補補正版の出版を2018年2月に行った。また、『障害者雇用における合理的配慮』(中央経済社)において執筆者として参加し、障害者差別について解説した。また、障害法学会において、合理的配慮に関する裁判例(原田学園事件・岡山地判平成29・3・28)の研究報告を行った。その他、論文や判例評釈を複数執筆した。さらに、障害者雇用に携わる可能性のある人々への講演を行った(全国重度障害者雇用事務所協会相談員研修、青森社労士会および愛知労働基準協会)。 第2の目的は、合理的配慮概念が女性労働者や非正規雇用労働者、健康に問題を抱える労働者にも拡大が可能であるとの仮説に立ち、その可能性を検討することにある。この点については、第1の目的と合わせ、単著『障害者雇用と合理的配慮』において検討し、2018年8月刊行を予定している。 これらの研究実績を通して、障害者差別や合理的配慮に関する理論的研究を深めるとともに、広く一般にもその概念が伝わるよう努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単著の出版は当初の予定よりも少し遅れることとなったが、2013年に障害者雇用促進法が改正されたことを受け、その後に出された厚生労働省令や、複数の裁判例、それらに対する学説の評価を踏まえることができた点において、2018年の発行はむしろ内容の充実にとっては良かったと思っている。ただし、合理的配慮概念の発展可能性の議論については、必ずしも納得のいく検討ができたわけではないため、単著への評価も踏まえ、今後さらに検討していきたい。 当初の予定にはなかったことであるが、2017年5月から厚生労働省の労働政策審議会障害者雇用分科会の委員および今後の障害者雇用促進法制の在り方に関する研究会のメンバーとなり、障害者雇用政策の在り方に直接関与することができる立場となった。これも、障害者雇用に関するこれまでの研究業績が認められた結果と考えている。分科会および研究会では、障害者団体、労働者団体、使用者団体、学識経験者が参加するため、その場の議論においても、障害者雇用の実態に関する理解を深めることができた。 また、アメリカでのヒアリングは行えていないが、まずは日本における議論をしっかりと踏まえることが重要であるとの認識によるものであり、日本での問題点を明らかにしたうえで、2018年度以降にヒアリングを実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
障害者の雇用・就労の分野においては、法改正が続いており、関連する裁判例もみられている。ただし、それらの法解釈は定まっておらず、現場においても多くの混乱がみられる。また、障害者についても「多様な働き方」が求められるなかで、企業における雇用だけでなく福祉施設での就労や在宅就労等の働き方が注目を集めているが、異なる法制度による規制を受けるため、連携が図られておらず、様々な問題が生じている。 そこで、第1に、新たな法制度の解釈を明らかにするための研究を引き続き行う。論文等による発表だけでなく、事業主や障害者にわかりやすく伝えるための講演等も積極的に行う。2018年6月頃に「障害者の安定雇用・安心就労の促進をめざす議員連盟」(インクルーシブ雇用議連)において、障害者雇用についての講演を行う予定となっている。厚生労働省での分科会や研究会と合わせて、これまでの研究成果を、実際の政策に少しでも反映させられるよう努めたい。 第2に、労働法の分野(雇用)と社会保障法の分野(福祉的就労)の両方の領域において研究を進めていく。これらの研究を行うために、論文や裁判例の研究を進めるとともに、各種の研究会に出席し、また、雇用・就労の現場を訪問しヒアリングを行う。 第3に、2018年度後期から、アメリカに留学をするため、日本が障害者差別禁止規定を導入するうえで参考としたアメリカの法制度と現地での障害者雇用・就労の実態を研究し、それらの成果を日本法の法解釈や法改正等に生かしていく。
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Causes of Carryover |
アメリカにヒアリングに行く予定であったところ、単著の執筆に集中したことおよび日本の障害者雇用促進法に関する研究を十分に理解することがまずは重要であると考えたことから、アメリカへの出張を行わなかった。その分の費用については、次年度に回すことを考えている。
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Research Products
(7 results)