2018 Fiscal Year Research-status Report
合理的配慮に関する理論的・実態的研究-合理的配慮概念の拡大可能性を視野に入れて
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16K17001
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
長谷川 珠子 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40614318)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 障害者雇用 / 合理的配慮 / 雇用義務制度 / 障害者差別 / 障害をもつアメリカ人法 / 障害者雇用促進法 / 福祉的就労 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2013 年の「障害者雇用促進法」の改正により導入された「障害者差別の禁止」と「合理的配慮の提供義務」の規定(2016年4月1日施行)が、①日本においてどのように解釈される(べき)かを検討すること、②合理的配慮概念が、障害者雇用の分野だけでなく、多様な労働者にも拡大可能であることを検討することを目的とするものである。これらの研究を進めた結果、2018年8月に、単著『障害者雇用と合理的配慮‐日米の比較法研究』(日本評論社)を出版することができた。同書のなかでは、障害者差別禁止や合理的配慮について世界で初めて1990年に法律(障害をもつアメリカ人法)を制定したアメリカの研究をするとともに、日本について障害者雇用・就労施策の歴史的な背景を丹念に追ったうえで、現行の障害者雇用・就労制度を詳説し、合理的配慮に関する問題を検討した。同書は、様々な雑誌で書評をされただけでなく、労働分野において優れた図書・論文におくられる「冲永賞」を受賞した。この他にも、判例研究や障害者雇用に関する雑誌論文の執筆を行った。 また、理論的研究だけでなく実態的な面からの検討も重要であるとの認識の下、障害者を雇用する企業や就労施設へのヒアリング調査を行った。さらに、障害者問題に関して、裁判所(福島地方裁判所)、労働団体(連合)および弁護士等に対して、講演を行い、いまだ十分な理解の進まない障害者雇用に関し、広く理解を進めるための活動を行った。 2018年度後半からは、アメリカ(ハワイ大学)での在外研究を開始し、アメリカの障害法の研究者等との意見交換や、シンポジウムに参加するなどし、アメリカにおける最新の状況についても調査している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述したように、本研究の大きな目的は、①障害者雇用促進法における合理的配慮のあり方と、②合理的配慮の拡大可能性を明らかにすることにある。①の点については、2018年8月に公刊した単著『障害者雇用と合理的配慮』により、相当な部分について、明らかにすることができたと考える。たとえば、障害情報に関し、差別禁止の要請からは情報取得は禁じられるべきであるが、合理的配慮の提供のためには積極的な取得が求められるといったジレンマがあることを指摘し、その問題解決の方法を検討した。また、従来の裁判例の中で見られる合理的配慮類似の考え方を新たな合理的配慮規定のなかでどのように解釈すべきかを検討した。さらに、合理的配慮の対象となるべき障害者の範囲について、雇用義務制度の対象となる障害者や、福祉的就労制度の対象となる障害者との比較によって、あるべき姿を提示した。これらにより、合理的配慮の理論的検討は概ねできた。 目的の二点目について、男女雇用機会均等法によって性差別が禁止されたが、男女間の格差は解消されず、かつ、少子化を招く結果となっていること、そのため、均等法による妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止や育児介護休業法による育児や介護責任を負う労働者への配慮が拡充していることを指摘した。それでもなお少子化傾向が継続したことから、次世代法や女性活躍推進法が制定されていることを整理し、差別禁止や法律による一律の労働者への配慮(育児休業、介護休業等)だけでは、多様な働き方に対応しきれないことが明らかとなり、その部分を補うために、企業が各企業の事情に合わせたかたちで、自主的に取り組むことを推進する次世代法や女性活躍推進法が制定されてきたことを指摘した。そして、そのような流れは、合理的配慮の考え方とも通じるところがあることを明らかとした。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、改正障害者雇用促進法が2016年4月に施行されて以降、同法に言及する裁判例がいくつか見られてきており、今後その件数は増えると考えられる。したがって、それらの裁判例の検討を行う必要がある。また、職場における合理的配慮がどのように提供されているのか実態をさぐるため、企業へのヒアリング等も続けていく必要がある。 次に、障害者雇用に関しては、2018年夏に発覚した中央省庁等による障害者雇用の水増し問題を受け、中央省庁等において障害者雇用が適切になされるようにするための、法改正がなされた。これまでは、中央省庁や地方自治体に関しては、障害者雇用が進められていることが当然であると捉えていたため、検討の対象とすることはほとんどなかったが、今後は、公的部門における障害者雇用の問題についても、注視していく必要がある。 働き方改革の影響を受けて、労働法分野における法改正が続いているが、これらの法改正が障害者雇用問題にどのような影響を与えるのか、また、逆に、合理的配慮概念が多様な働き方をする労働者に与える影響について、検討する。 2018年度後半からアメリカに在外研究にきているため、アメリカにおける障害者雇用の理論的研究を進めるとともに、障害者雇用実態についても、ヒアリング調査を行うなどしていく予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度後半から、アメリカ(ハワイ大学ロースクール)に在外研究中であり、アメリカでの研究・調査を行うための費用として、2019年2月から本科研費の研究費を使用しているところ、2019年度も継続することになっている。在外研究では、障害法や労働法、憲法の研究者との研究会の参加や、裁判官や弁護士との意見交換などを行うとともに、ハワイ大学内に設置された障害法研究所(Center on Disability Studies)の研究員らと障害者の就労支援プログラムに参加するなどしており、2019年度も引き続きこれらを行う。
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Research Products
(7 results)