2017 Fiscal Year Research-status Report
公的扶助の不正受給防止策における「受給者保護」の視角に関する比較法的研究
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16K17006
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
山下 慎一 福岡大学, 法学部, 准教授 (10631509)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 権利意識 / 権利救済制度 / 要介護認定 / 不服申立て |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究の進展によって、研究目的たる公的扶助領域における不正受給への保護を考えるに当たっては、前提として、社会保障法領域における権利意識・法意識を検討することが不可欠であるとの結論に至った。 そもそも公的扶助(日本では生活保護)を受給することは法的権利として保障されているであるにもかかわらず、実際には市民はその権利行使に対して消極的であり、その背景に、公的扶助受給者ないし公的扶助制度自体に対する世間の敵視が存在する(これは少なくとも先進諸国に共通の傾向の要である)。そのような中で、公的扶助の不正受給が発生した場合に、不正受給者に対する保護の必要性を論じることに対する社会的コンセンサスは決して得られない。そうすると、公的扶助に対する敵視がそもそもどこから生じているのか、言い換えれば、我々は社会保障における権利に対してどのような意識を持っているのか、ということをまず明らかにしなければ、研究の前提が整わず、むしろいたずらに公的扶助をめぐる社会の分断を深める結果になりかねない。 以上のような問題意識の下、平成29年度は、介護保険に関する市民の法意識を、特に要介護認定に対する不服申立件数の観点から明らかにする研究を実施した。介護保険制度を取り上げたのは、社会保障法領域でも比較的新しく、制度発足時から現在までの全期間のデータ検討が可能であるためである。検討に際しては、47都道府県に対してアンケート調査とデータ提供に関する助力を依頼し、うち46都道府県から実際に協力を得た。検討の結果は、山下慎一「要介護認定に関する審査請求の実態」(福岡大学法学論叢/Fukuoka University Review of Law,62(3),819-834 (2017-12) )として公表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究は、今回の申請にかかる研究関心が、結局のところ申請者が研究を志して以来有している最大の問題関心(社会保障の法的権利とは何か、その実効的保障方法のいかん、さらにはそれらを取りまき直接・間接に権利行使を規定する「法意識」のいかん)を避けては通れないことが明らかになり、このテーマに取りかかる決意と契機を得ることのできた期間であった。もし、上記テーマを敬遠して従前どおりの研究計画を実施していたとすれば、それは何らの規範的基礎づけもない表層的な研究に止まっていた恐れが強い。 その意味で、「当初予期していないことが起こ」ったと言え、本研究課題の事前の計画自体とは当然異なる経路をたどりつつあるが、本研究課題は明らかに高次の研究段階に入ったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題はいよいよ最終年度を迎えるため、今後の研究は、一旦抽象化され高次化した研究関心を、当初の研究関心に再度引き付け、設定した問いに一定の結論を出すべき段階にある。具体的な研究推進方法は、次のとおりである。 当初の研究関心の焦点であるところの、公的扶助の不正受給を生じる最大の要因すなわち稼働収入の無申告は、そもそも公的扶助と労働の関係に起因している。そこでは、公的扶助がまずは労働を前提として作動する仕組み(生活保護法4条:補足性の要件)が採られているが、その制度設計は何に基礎づけられているのかが明らかでない。単なる政策判断なのか、それとも何らかの規範的な根拠があるのか。もし後者であるとして、そこには憲法上の労働義務が何らかの影響を与えているのか。その影響は、法的なものなのか(そうであるとすると、労働義務を倫理規定とする通説との関係はどうなるのか)、それともむしろ世間の法意識等に媒介されたものなのか。これらの点を明らかにすれば、そもそも当初の問題関心を、「不正受給とは何か/サンクションがそもそも必要なのか」という観点から捉え直すことが可能になると思われる。
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Causes of Carryover |
研究計画の発展、および研究資料の充実ないし入手の容易化により、当初予定していた海外出張を平成29年度内に実施しなくとも良くなったため、次年度使用額が生じた。 今後は、本研究課題が最終年度でまとめの段階に入るため、より効率性の高い研究遂行が必要である。具体的には、資料収集や裁判例データ一覧表、国会議事録等の一次資料の下調べ等において、可能な部分はアルバイトに任せるなどの方策があり得る。そのために、次年度使用額相当分と翌年度分を併せて、人件費として使用する計画である。その他、文献収集や研究会報告等にかかる費用も、(許された枠内で金額そのものは変動し得るが)当初の予定通り使用する計画である。
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