2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17009
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
稲谷 龍彦 京都大学, 法学研究科, 准教授 (40511986)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 企業犯罪 / 比較法 / 法と経済学 / 法哲学 / 刑事司法制度論 / 訴追延期合意・不訴追合意 / 刑法 / 刑事訴訟法 |
Outline of Annual Research Achievements |
刑事司法を通じた企業構造改革の可能性を明らかにするという研究目的を達成するため、合衆国の訴追延期合意及び不訴追合意の現状について米国司法省及び法律事務所へインタビュー調査を実施し、当該手続についての実践的知見を深めた。 また、日英仏の弁護士の協力により、欧州でのインタビュー調査も実施でき、英国における訴追延期合意制度及び仏共和国における企業犯罪対応を目指した新立法の現状について生きた知識を得た。 さらに、経済学者・会社法学者の協力を得て、法と経済学的観点から、企業犯罪処罰の効率的なあり方についての研究会を実施することができ、従来の日本刑事法に欠如しがちな視点を得た。 これらの実地調査・研究会活動に加えて、文献の渉猟により新たな知見を獲得した。従来から企業犯罪処罰にあたっては、啓蒙主義的な道徳理論に基づいて、人間の意志への働きかけを重視してきた刑法理論との齟齬が問題となっていた。そこで、人間以外の存在についても道徳性を肯定する近時の道徳理論について反省的に考察し、これに基づいた法人処罰のあり方を考究することで、ボトルネックを脱する可能性を見出した。また、近時の企業犯罪対応手法をめぐって、法と経済学的な観点からの効率性の実現と、近代刑事司法が重視してきた法による正義の実現とがしばしば齟齬をきたし、その調停が求められていたことから、複数の知とそれぞれがもたらす統治のあり方の関係性について考察した哲学理論を参照し、この点についてもボトルネックを脱する可能性を見出した。 以上のような研究に基づき、「企業犯罪対応の現代的課題(一)-DPA/NPAの近代刑事司法へのインパクト-」法学論叢180巻4号40頁を執筆・公刊した。本論文は、グローバルなレベルで喫緊の課題となっている新たな刑事司法制度の動向について多角的視点から考察するものであり、理論上も実務上も重要であり、かつ独創的な成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画の段階では、本年度は合衆国への調査がメインであり、欧州調査は3年目以降を予定していたが、欧州調査についても調整がスムーズに運んだため実施することが出来た。このように当初よりも調査が進んだ理由としては、合衆国調査において司法省の現役検事や現に手続に関与している一線の弁護士にインタビューする機会が得られたこと、また英国調査においては英国初の訴追合意制度を利用した案件を取り扱った弁護士にインタビューする機会が得られたこと、さらに仏共和国調査においても、仏共和国の新立法立案に関与した弁護士にインタビューする機会が得られたことなど、研究パートナーに恵まれたことが大きな理由である。 文献渉猟に基づく理論面の深化については、主として哲学的な側面について予想以上の成果が上がった。その理由としては、人間以外の存在の道徳性について考察する文献の反省的考察を通じて、新たな刑法理論の構築を試みたことにより、人工知能と法についての研究プロジェクトへ参加する機会を得たことや、アーキテクチャと法についての研究所の出版に参加する機会を得たことなどが大きい。これらの研究は、表面的には本研究とは関係しないようにも思われるが、実際には人間以外の存在にどのような法的責任を設定するべきかという規範理論の構築に関わる研究主題であるため、実質的に企業の刑事責任のあり方についても様々な形で重要な示唆を得ることができた。 法と経済学的側面についても、企業に対する刑事制裁が経済学的な観点からどのような意味を持っているのかについて経済学者と共同で数学的モデリングを行うなどし、当初期待した以上の進捗が見られている。とりわけ、従来の法と経済学においては、主たる方法論であった価格理論に代わり、ゲーム理論によるモデリングを行うことにより、一層精緻な分析を可能とする途を開きつつある点で、当初の予定を超える成果があった。
|
Strategy for Future Research Activity |
米国及び欧州への調査及び日本国内の弁護士事務所への調査については、研究計画にも記載した通り、必要な範囲で今後も実施する予定である。 また、法と経済学及び法哲学的なアプローチの深化については、本年と同様に文献渉猟と研究プロジェクト・研究会への参加を通じて行う予定である。この点と関連して、経済学分野の協力研究者がオーストラリア国立大学に移籍し、同地には刑事司法制度論及び企業犯罪論についても著名な研究者が在籍していることから、本年度以降はオーストラリア国立大学での研究会への参加等も予定しているところである。これにより、本研究は一層の厚みを増すものと期待される。また、法哲学分野についても、人工知能と法に関する研究プロジェクトへの参加を予定しているため、人間以外の存在の刑事責任について、一層の理論的深化が得られることが期待されるところである。 以上に加えて、本年度の刑法学会関西部会において、新たな企業犯罪対応の動向という企画に参加することとなっており、日本の第一線の研究者たちとの意見交換を通じて、本研究を一層実りある研究にしたいと考えている。 具体的な成果としては、既に本研究に深く関係する論文の連載を開始したところであるので、まずはこの論文を完結し、また、その後単行本として刊行することを通じて、本研究成果を広く企業法務実務・法制実務へと還元したいと考えている。これに加えて、本研究の取り扱うテーマは、国際的にも注目度が高い問題を含んでいるため、協力研究者の助力を得つつ、適宜その成果を、海外の専門誌へ掲載・公表することを視野に入れ、現在調整を行なっている。
|
Research Products
(2 results)