2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17009
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
稲谷 龍彦 京都大学, 法学研究科, 准教授 (40511986)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 刑事司法制度論 / 法と経済学 / 法哲学 / 認知心理学 / 企業犯罪 / 比較法 / 訴追延期合意 / 国際研究者交流(英・米・仏・独・台湾) |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も前年度に引続き、合衆国・連合王国・仏共和国における訴追延期合意及び不訴追合意についての比較法的調査・検討を行った。比較法的調査においては、わが国と同様に法人処罰制度の整備についての議論が始まりつつあるドイツ連邦共和国の研究者と訴追延期合意及び不訴追合意について意見交換することにより、我が国において従来支配的なドイツ法的伝統との接続可能性を検討することもできた。また、法と経済学、認知心理学及び哲学的観点からの調査・検討も前年度から引続く形で行った。とりわけ本年度の成果として大きいのは、合理性、心理学的主体性、合成志向性、徳倫理学といったそれぞれの領域における概念を整合的・統合的に理解し、企業犯罪の分野に応用する方法について、それぞれの分野の研究者と交流しながら意見交換し、検討する機会を持つことができたことにより、統合的に問題を把握するための手がかりが得られたことである。すなわち制度を動態的ゲームのもとで均衡するルールとして理解し、主体の合理性や心理学的主体性が、環境や文化をも含めた制度変数との相互作用によって形成されるとの考え方に立つことで、企業内部の構成員の振舞いを従来より精緻に把握・分析し、より効果的な企業犯罪対応のあり方を提唱するためのフレームワークが得られる可能性があることを突き止めたことは、本研究の過去2年間の業績を統合する大きなものであったと考えている。このような理論面での業績に加え、本年度は実務家との共同研究においても、理論の具体的問題への応用の可否について深く検討する機会を得ることができた。 なお、本年度は、一昨年度から連載中の論文を3本公刊するとともに、新たに本研究の成果に基づいて、合衆国の訴追延期合意制度について紹介・分析する論文を1本公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、当初の計画以上に進展していると考えられる。その理由としては、他分野の研究者との継続的な交流を通じて、法学研究の方法論について反省的に捉える機会を持つことができたことが大きいように思われる。すなわち、哲学・経済学・認知心理学・脳神経情報学等の専門家と、人工知能研究、とりわけ「人間以外の刑事責任」という参照軸を通じて交流することができたことにより、当初予定していたよりも遥かに大きな射程を持つ問題群、すなわち人間に「自由意志」を認めるべきか否か、認めないとするならば、これまでの法学の責任分配基準をどのように理解するべきか、また人間以外に刑事責任を追及するとは具体的に何を意味するのか、といった問題群に、他分野の専門知識を投入しながら、正面切って向かい合うことができた。このことにより、本年度の研究業績の欄に記したように、人間行動についての統合的なフレームワークについての理解を深めることができたことは、企業犯罪への効果的な対応の特定という問題設定を超える、刑事法学全体ないし法学全体に関係しうる重要な問題設定へと繋がったと考えている。 こうした理論面での成果は、実務家や国際研究者との交流においても、重要な進捗をもたらした。すなわち、実務家との問題意識の共有と具体的な問題への方法論の適用をめぐる検討においては、本研究を通じて獲得されつつあるフレームワークが、現に実務家が直面している問題を解決する上で重要な意義を持つものであり、机上の空理空論に終わるものではないことが確認された。また、国際研究交流においては、本年度は、英国・ドイツ・米国・仏国・台湾の研究者らと意見交換し、あるいは共同研究会を開催する機会を得られたが、そこにおいて本研究の依拠する理論枠組みを検討する機会が得られたことも本研究課題を推進する上で、非常に大きな契機となった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、第一に、これまでの研究成果の統合と検証、そして、本研究課題の成果の公刊に重きを置いて活動することを考えている。すなわち、本年度までの研究成果によって徐々に獲得されつつある、人間行動に関する統合的なフレームワークを利用した企業犯罪対応の分析について、アメリカ合衆国の第一線の実務家および研究者の前で報告を行い、批判的なフィードバックを得ることを第一の目標としている。日本の実務家研究協力者の尽力により、次年度秋に大変貴重な研究報告機会を得ることができたので、まずはそこに向けてこれまでの研究成果を統合した理論枠組みと、その企業犯罪への具体的応用について明晰に言語化したいと考えている。また、そこでのフィードバックを踏まえて、現在連載中の論文およびその他の媒体において、本研究課題の成果を公刊することを目指すこととする。もちろん、そこまでの過程においては、本年度までに培った研究人脈や、本年度までに収集した研究資料をフルに活用するものである。 なお、こうした人間行動に関する成果に加えて、グローバル化対応に関する問題についても相応の成果が上がりつつあるので、次年度はグローバル化対応に関する成果の公表機会の獲得と、一層の研究の進展にも取り組みたいと考えている。その方法としては、合衆国・連合王国・仏共和国における域外適用に関する文献の渉猟と、いわゆるグローバル公共財論とを、企業犯罪に対する効果的対応との関係で整理し、また批判的に検討した上で、その成果をやはり国際研究者交流ないし実務家との交流を通じて検証するという方法を取る予定である。
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Research Products
(7 results)