2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K17011
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 優輝 広島大学, 社会科学研究科, 准教授 (00634023)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 被害者の同意 / 危険の引受け |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、被害者の危険引受けをテーマとする共同研究に参加する機会を得たため、当初の研究計画とは順序を変更し、危険引受けの問題領域において被害者の意思が有する意義を解明することを試みた。危険引受けに関しては、本研究課題以前から研究対象としてきたものであり、既に論文も公表して被害者の同意論のアプローチにより解決を図る方向性を示したところではあるが、その後の日本とドイツの議論状況をも参考にしながら、さらに検討を加えた。ドイツにおいては、最上級審判例が同意論により解決を図る立場を示したこともあり、近時のモノグラフィーにも同様の解決を支持するものがいくつか現れている。これらを検討した結果、同意論の枠組みで問題解決を図るべきだとする立場がなお維持されてよいことを確認されたが、同時に、同意による正当化を認める範囲や具体的要件如何については未解明な部分が多いことも確認された。また、共同研究での議論を通して、他の解決方法との差異についても理解を深めることができた。 他方で、被害者の意思に反するというだけで犯罪の成立を認めるべきでないことが、とくに財産犯の領域で議論されている。そこで、近時社会問題となっている振込め詐欺事犯のいわゆる出し子の刑事責任が問題となった裁判例を素材として、この種の事案における被害者の意思が犯罪の成否において有する意義を検討し、研究会で報告を行った。検討・報告の結果、裁判例では、少なくとも判文上は、被害者の意思に反することが犯罪の成立を肯定する決定的理由であるかのように書かれるが、財産犯では保護に値する財産侵害が認められなければならないことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画とは順序を変更しているものの、全体として見れば順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画で予定していた錯誤に基づく同意の有効性や契約による正当化の問題を、ドイツの議論を参考にしながら研究する。
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Causes of Carryover |
初年度に取り上げる主要テーマを危険引受けに変更したところ、同テーマは既に従前からある程度研究を進めてきたものであるため、文献の購入費用がやや少なめになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に取り上げる研究テーマに関する文献や近時出版されたドイツにおける注釈書等の購入費用に充てる。
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