2016 Fiscal Year Research-status Report
共同担保概念に見る人的信用の仕組みの研究――フランスの資産論を通じて――
Project/Area Number |
16K17021
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
瀬戸口 祐基 神戸大学, 法学研究科, 特命准教授 (20707468)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 共同担保 / 一般財産 / 責任財産 / 資産 / patrimoine |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本法の下での「共同担保」概念の位置づけを探るために、フランスにおける「資産」概念をめぐる議論を検討しようとするものであるところ、平成28年度においては、主として19世紀から20世紀半ばまでにおけるフランスでの議論、特に、この時期に出現した資産についての相対立する2つの基礎理論であるオーブリーとローの資産理論とガザンの資産理論の検討を進めた。この結果、両理論が、共同担保に関するルールが有する一定の意義を示唆するものでありつつも、そのルールを説明する上でそれぞれが不十分さを抱えていたことが明らかとなった。 また、当初の予定よりも研究が順調に進んだ結果、その後1990年代までの議論状況についても検討を行うことができた。この結果、20世紀末には、前述の2つの理論がいずれも共同担保に関するルールを適切に説明できていないことを認識して、それらの理論とは異なる説明の仕方を模索する学説が出現したことが分かった。 以上の検討から、フランスでは、共同担保に関するルールをどのように位置づけるべきかをめぐって、長い間議論が交わされてきたことがわかる。特に、共同担保に関するルールが、原則として、債務者という法主体の存在を支えとするものでありつつも、種々の例外を伴うことが意識された上で、このような状況を全体としてどのように理論的に整理すべきかが、議論の対象となってきたことが判明した。また、この議論が有する実践的意義も、広く認識されるようになったことがわかった。 このようなフランスにおける議論状況は、共同担保についてフランスとほぼ同様のルールを有しつつも、このルールについて必ずしも自覚的な議論をしてこなかった日本において、改めて共同担保の位置づけを探っていくうえで、参考になるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成28年度には、20世紀半ばまでのフランスにおける議論を検討することを予定していたが、同年度中に、20世紀末までの議論の分析まで終えることができた。この結果、平成29年度に進めることを予定していた検討作業も、平成28年度末時点において、一部完了したこととなる。 また、研究の進行を妨げるような事情も現時点では発生しておらず、何らかの障害が生じる見込みも存在しない。 以上から、本研究は、当初の計画以上に進展しているものと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初計画していた内容のうち、残された部分の研究を進めていくことを予定している。具体的には次のとおりである。 まず、平成29年度には、21世紀に入ってからのフランスにおける学説上の議論と立法の動きとをフォローしたうえで、フランス法全体について総括を行うことを予定している。また、その成果の一部を公表することも計画している。 次に、平成30年度には、それまでに行ったフランス法についての検討を踏まえて、日本法の下での共同担保概念の位置づけを探っていく。そしてその成果を、平成29年度に公表するものとあわせた形で公表することを予定している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額6,989円は本研究に必要な図書(洋書)を購入するために利用する予定であったが、当該図書の代金がこの金額を超過するものであったため、事務処理上の理由によりやむなく別途支弁することとした結果、上記金額が残ることとなった。したがって、本研究に必要な金額が当初予定していたものよりも低いもので済んだというわけではない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額として残った分は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、資料収集等に使用する。研究の進捗状況との関係で平成29年度には当初予定していた以上の支出が見込まれるところであり、また、同年度中に海外出張を行うことも予定しているため、同年度には次年度使用額が発生することはないか、発生したとしても平成28年度同様ごくわずかにとどまるものと考えられる。
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