2016 Fiscal Year Research-status Report
同性カップルによる共同生活契約の法的課題の検討―フランスのパクスとの比較から
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16K17022
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大島 梨沙 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20580004)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 共同生活契約 / パクス / 夫婦財産契約 / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、同性同士のカップルによる共同生活に関する契約(「共同生活契約」と呼ぶ。渋谷区のパートナーシップ証明取得の際に必要となる契約を念頭に置くがそれに限られない)の締結に焦点を当て、その可能性と限界を検討することを目的としたものである。共同生活契約に不可欠な合意事項とは何か、どのような合意が可能(/不可能)か、契約の有効性と公示(パートナーシップ証明)の有効性との関係等を、フランス法を参考としながら明らかにし、日本の婚姻法・契約法の中に共同生活契約を位置づけることを目指している。 平成28年度は、参照対象としたフランスの共同生活契約のあり方を把握する計画であったところ、主として3つの成果を得ることができた。 (1)共同生活契約としての性質を有するフランスのパクス(民事連帯契約、異性または同性の2名が共同生活を送るために締結する契約)、およびカップルの財産関係を扱うという点でパクスと類似の性質を有する夫婦財産契約について、実際にどのような制度となっており、どのような点が議論されているかを把握する作業を行った。その結果、共同生活に関する契約においてフランス法がどのような点に留意しているか、合意可能とされている事項と不可能とされている事項、その理由などを明らかにすることができた。 (2)日仏の債権法改正(債権総論部分)に関するシンポジウムへの参加を通して、共同生活契約にも登場する「連帯債権・債務」についての日仏の相違(例:フランスでは、連帯債務の絶対効が広く認められている(全部義務〔不真正連帯債務〕との統合は行われなかった))を認識し、その背景について考察することができた。 (3)フランスの相続および離婚手続きにおける公証人の役割に関するフランスの公証人の講演会に参加することにより、(共同生活を考えるにあたって密接に関わる)相続や離婚の実際の手続きのあり方や現状を知ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、フランスのパクスの具体的な使われ方や法的議論状況を把握することを目指していたところ、実際には、平成29年度に予定していた作業(共同生活契約の日本の契約法上での定位の前提として、日仏の契約法を参照し、組合契約等の関連典型契約や夫婦財産契約と比較するという作業)の一部を前倒して行ったため、当初予定していた計画からの変更が生じた。しかし、下記の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
(1)関連文献を講読し「フランス家族財産法研究会」において報告することにより、夫婦財産契約およびパクス当事者の財産関係の詳細について理解を深めることができた。夫婦財産契約との比較については次年度(平成29年度)に行う予定であったが、パクスと随時比較していく方が効率的であることが分かったため、本年度からパクスと夫婦財産契約の両者を対象とすることとした。その分、パクスの具体的な使われ方や法的議論状況を把握については不十分な点が残ったが、この残りの作業は次年度行う予定である。 (2)日仏の債権法改正(債権総論部分)に関するシンポジウムに参加・報告したことにより、日仏の債権法の構造の相違を理解することができた。とりわけ、共同生活契約にも登場する「連帯債権・債務」についての日仏の相違を知ることができた点は、今後の作業の足掛かりになると思われる。 (3)予定していたフランスの公証人へのインタビュー調査は次年度に延期することとしたが、その代わりに、来日された公証人から、(共同生活契約や夫婦財産契約とも密接な関わりがある)相続や離婚手続きにおける公証人の職務の詳細を知ることができた。平成29年度、パクス、夫婦財産契約、共有の約定、組合契約、トンチン条項など、共同生活のために用いられている手段につき、実際の使われ方を公証人に対してインタビュー調査する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、共同生活契約の日本の契約法上での定位の前提として、日仏の契約法を参照し、組合契約等の関連典型契約や夫婦財産契約と比較する作業を本格的に行うほか、前年度にやり残した、パクスの実際の使われ方に関する研究を遂行する。 (1)日仏の代表的な債権法の書籍を渉猟することにより、契約における意思主義、無効論、公序良俗論などの一般理論を確認し、両国の債権法の基本を理解する。 (2)(1)の後、組合契約、賃貸借契約、委任契約、贈与契約など、共同生活契約との一定の関連性を見出しうる契約類型の各論について、日仏の主要書籍を収集し、概要を把握する。そのうえで、共同生活契約にも及びうるルールの洗い出しを行うなど、共同生活契約を位置づけるための作業を行う。 (3)前年度やり残した作業として、パクスの実際の使われ方や議論状況を把握する。9月からフランスに赴き、パクス、夫婦財産契約、共有の約定、組合契約、トンチン条項など、共同生活のために用いられている手段につき、公証人に対してインタビュー調査することなどにより、理解を深める。また、夫婦財産契約と比較する作業は既に28年度から始めているが、29年度も継続してこれに取り組む。
平成30年度は、以上から得られた知見をもとに、日本契約法・婚姻法上で共同生活契約を位置づけるための作業を行う。
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Causes of Carryover |
2016年度、フランスの公証人へのインタビュー調査のため、フランスでの調査研究を行う予定であったが、2017年度の後半から2018年度の前半にかけて、フランスでの在外研究を行うこととが可能となったため、公証人へのインタビューは在外研究時(2017年9月を予定)に行うこととした。この計画変更により、公証人へのインタビュー調査のための渡航費が不要となった。他方、フランスで債権法改正が実現したほか、日本でも相続法改正など関連する動きが活発になったため、それらにかかる図書購入費用および研究会参加費用が想定よりも高くなった。これらの差し引きの結果、6万円強の次年度使用額が生じたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定通り、公証人へのインタビュー調査のために使用する。在外研究のための渡仏後、公証人の事務所がある町までの旅費、および公証人に対する謝金として使用する。
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Research Products
(9 results)
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[Book] Droit du Japon2016
Author(s)
BABA Keita, HATANO Hiroki, KAKIUCHI Shusuke, KANEZUKA Ayano, KITAMURA Ichiro, MIZUMACHI Yuichiro, NAKAHARA Taro, OGINO Nao, OSHIMA Lisa, SAITO Tetsushi, SUGIMOTO Kazushi, TAKAHASHI Nobuyuki, TORIYAMA Kyoichi, YAMAMOTO Hajime, YAMASHIRO Kazuma, YOKOYAMA Mika
Total Pages
106(55~60)
Publisher
LGDJ
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