2016 Fiscal Year Research-status Report
財産管理型信託における受託者の注意義務・忠実義務の明確化
Project/Area Number |
16K17039
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Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
田岡 絵理子 国士舘大学, 法学部, 准教授 (20551039)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 信託 / 忠実義務 / 財産管理型信託 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 財産管理型信託(民事信託)においては、余剰資産の運用を図る財産運用型信託とは異なり、信託財産管理を委託する依頼者には、財産管理技能がない、あるいは、それが低い者が想定されることから、自らの余剰資産の運用を図ろうと試みる者に対するのとは、異なる特別な弱者保護という配慮を要する。そのため、前年度は、財産管理型信託に焦点を当て、いかなる場合に有効な信託が成立したといえるのかについて、検討を加えた。その成果の一部を「『財産の管理・処分を託す』ということ」信託フォーラム6号58頁以下にて公表している。 2 財産管理型信託の受託者が負う義務の中でも、もっとも重要な義務である忠実義務と善管注意義務について、イギリス法及びカナダ法を比較法の対象としながら考察し、第80回私法学会にて、研究報告を行った(2016年10月9日、開催地:東京大学)。 3 財産管理型信託における財産管理の依頼者の典型例である高齢者の財産管理の一つである信託の法整備のあり方について、とりわけ受託者にいかなる義務が課せられるべきかについて、日本法及びイギリス・カナダ・オーストラリア法における扱いについて資料収集とのその分析を進めてきた。高齢者の財産管理態様は多岐に渡るところ、信託とはそのうちの一つの管理方法である。そのため、上記の研究に際しては、財産管理型の信託法制にとどまらず、より広い視野で、高齢者の財産管理にかかるあるべき法制度という視点も踏まえながら研究を進めてきた。その過程で、高齢者が残余資産をはたいて、老人ホームへの入居という形で以後の生活にかかる財産管理を行う態様についても検討を加えており、その一部を研究成果として公表している(「有料老人ホーム入居契約における権利金不返還条項と初期償却条項の不当条項性判断についての一考察」『早稲田民法学の現在』近日公刊予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内法に関しては、財産管理型信託において受託者が負うべき義務について、日本法における議論の資料収集と分析を続けてきた。そこでわかったことは、実務的実践が徐々に行われ始めたところであることもあって、その議論にはより深められる必要があるということである。そして、その際には、基礎理論を適切に構築しつつも、信託制度における受託者の義務のみを考察するだけでは足りず、より広く、多様な財産管理態様をにらみながら、その中での、財産管理者としての義務を踏まえて、受託者の義務の内容を実質化すべき必要性である。そのため、信託制度にとどまらず、成年後見制度、任意後見制度、委任契約などの各種の財産管理態様における管理者の義務について、実務実践を踏まえながら、研究を進めてきた。 外国法に関しては、イギリス・カナダ・オーストラリア法を中心に、上記の視点から、信託制度における受託者の義務に特化するのではなく、より広く、これらの国における各種の財産管理制度の在り方にも気を配りながら、その中で、信託制度が高齢者の資産管理にとり、いかなる役割を果たし、そして受託者がいかなる義務を負うことで、当該制度が適切に運用される担保が図られているのかについて、各国の状況を調べてきた。 上記の通り、国内法、外国法双方について、信託制度だけではなく、関連する財産管理にかかる諸制度についても広く研究対象とすることとなったため、当初の予定よりも研究領域に幅が出てきた分、若干遅れているように感じられなくもないが、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、特に外国法に関して、イギリス・カナダ・オーストラリア法を中心に、信託制度における受託者の義務内容だけに着目するのではなく、より広く、これらの国における各種の財産管理制度の在り方にも配慮しながら、多様な制度がある中で信託制度が高齢者の資産管理にとり、いかなる役割を果たし、そして受託者がいかなる義務を負うことで、当該制度が適切に運用される担保が図られているのかについて、各国の状況をより詳細に調べていく予定である。 そして、外国法研究を通じた比較法的考察にあたっては、各国の社会状況も踏まえつつ、高齢者の財産管理の諸制度の中の信託制度のあるべき姿を描き、その中で、受託者にいかなる義務を課すことで、信託制度のあるべき姿、あるべき資産管理を担保することができるかについて考察する。それを前提に、日本法における財産管理型信託のあるべき姿、それを適切に担保するための受託者の義務内容の充実化をはかるべく研究を進める予定である。
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