2016 Fiscal Year Research-status Report
戦後地方政府における「開放型」幹部人事の経験と展開に関する研究
Project/Area Number |
16K17053
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
稲垣 浩 國學院大學, 法学部, 准教授 (30514640)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 政官関係 / 任用制度 / 幹部人事 / 地方公務員制度 / 府県行政 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度となる平成28年度(以下、昨年度とする)は、以下の三つの課題について研究を進めた。 第一に、戦前から占領期までの府県における任用制度の制度と実態に関する資料の収集である。昨年度は、福井県、大分県、大阪府、宮城県の4府県の公文書館において、任用制度を中心とした関連資料の収集を行った。当時使われていた人事関係の例規集や採用試験の要項と結果、採用候補者名簿といった採用関連文書のほか、戦前の官吏制度時代、あるいはそこから戦後の公務員制度への移行過程に関する文書などを収集した。このほか、全国の図書館や古書店を中心に、当時の幹部職員の回顧録や文集など、その勤務実態や首長との関係などについて知るうえで重要と思われる資料の発掘を進めた。 第二に、戦後日本の自治体行政、および職員の職務実態についての調査である。昨年度は、京都府内の自治体を退職された元職員の方を対象とし、公選職の首長と幹部職員人事、および両者の関係構造についてヒアリングを行った。ヒアリングでは、職員としての職務経験(庁内でのキャリアパス、自治体における政策決定過程、特別職(首長、議会等)との関係、自治体における職員人事の実態、国や府との関係、住民などとの交流など)について聞きとりを行い、職員としてのキャリアが、首長による幹部人事の決定に大きく影響してきたことなどを確認した。調査の結果は報告書としてまとめ、本研究の対象である戦後地方政府の行政や人事の実態に関する基礎資料とした。 第三に、人事データの構築である。昨年度は、戦前期を中心にデータの構築作業を進めた。現在のところ完全なデータの構築には至っていないが、現在までのところデータ上から得られる大きな示唆としては、戦前期の府県において高等官(課長級)のうち、技術系職員(地方農林技師など)の占める割合が大きいことが明らかになったことが挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の現状から、研究は概ね順調に進展していると判断した。 第一に、終戦期を中心とした府県任用制度の運用状況の解明である。従来の研究では、府県における幹部職員の任用について、地方官官制などの法制度に比して、その実態はあまり明らかにされてこなかった。これに対して昨年度の研究では、主に終戦直前から終戦直後にかけての資料を収集・分析することで、幹部職員の人事制度および人事の実態についての解明を進めた。特に、戦中から終戦直後においては、戦争に伴う様々な混乱から府県独自の制度の形成・運用が見られた。終戦後の早い段階で、新規採用試験が各府県独自の規定に基づいて行われており、旧植民地などから多数の応募者があったことがわかった。一方で、省庁が関連ポストへ自省の官僚を採用するよう要請する文書を送っていたことなど、既存研究における人事の内務省統制とは異なる側面が明らかになった。現在、これらの分析結果について論文を執筆中である。 第二に、戦後における自治体職員の任用の実態についてである。上述した京都府内での調査を通じて、戦後制度の下での幹部職員の任用や異動、人事権者である首長との関係構造について調査を進めた。幹部職員はそれまでの職務経験を通じて国や府県、利益団体等と様々なネットワークを形成しており、これらが新しい首長にとっても重要な資源となることから、これが幹部職員の地位的な安定性につながってきたことが明らかになった。今後、他の自治体との比較を含めた、自治体職員人事における政官関係の構造に関する論文を執筆する予定である。 第三に、『職員録』を基にした人事データの構築である。昨年度は、国会図書館、東京都立中央図書館で元データ(大蔵省印刷局発行『職員録』など)を収集しデータの打ち込み作業を進めた。また、戦後との差異を明らかにするために、昭和10年ごろからデータを集め、入力・分析の作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、戦後府県における任用制度とその運用についての歴史的な変遷についての研究である。昨年度の研究からは、府県は職員の任用に関して独自の制度を形成・運用してきたことが分かった。今年度は、さらに研究対象となる期間と府県を広げ、諸資料の収集を通じて分析を進めていきたい。特に、府県による任用制度や運用状況の違い、あるいは国による戦後地方公務員制度の形成とともに、府県独自の制度がどのように変容したのかなど、その過程にまで対象を広げて分析を進めていきたい。 第二に、幹部職員人事および幹部職員の活動実態の分析である。昨年度の研究から明らかになった任用制度の下で、どのような者が幹部として採用され、どのような活動をしていたのかより具体的に明らかにしていく。すでに、これまでの自身の研究において昭和20年代に、主に農政や地域開発の部局を中心として、引揚者を中心として幹部職員の外部からの登用があったことは明らかにした。また、昨年度の大分県での調査では、満州国政府から大分県へ、職員採用試験を職員に受験させるよう要請する文書を発掘した。こうして満州に渡った職員が戦後府県に復帰できたのか、あるいは、こうした引揚者など外部から登用された職員が、戦後担当した任務や組織、人事権者である知事と関係など、さらなる資料の収集と共に、昨年の京都府内の自治体調査での分析結果を参考に、研究を進めていきたい。 第三に、人事データの構築とそれを踏まえた実態分析である。昨年度収集したデータからすれば、当時の府県がいわゆる「技官王国」であったとも考えられる。また、こうした技術系職員は、戦後の府県において重宝される一方で、府県間を渡り歩いていたことも確認された。こうした技術系職員が戦後の開発行政をはじめ、府県行政一般にどのように関与したか、という視点から、幹部職員ポストの変動や異動のパターンなどの検討を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
昨年度当初の使用額が想定していた金額よりも、購入費用等が安く抑えられたため、
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に、図書購入費用等として使用する予定である。
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