2018 Fiscal Year Research-status Report
西欧における右翼ポピュリスト政党の政権参加:連立内での影響力の比較分析
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16K17054
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
古賀 光生 中央大学, 法学部, 准教授 (50645752)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オーストリア / 極右政党 / 右翼ポピュリスト政党 / 急進右派 / 連立政権 / 政党システム論 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、西欧の右翼ポピュリスト政党の政治的な影響力について、政権参加が実現した事例を中心に検討している。研究対象の一つとしたオーストリア自由党について、主に2000年に成立したシュッセル政権の下での連立参加を分析の対象としていたが、2017年に、再び、クルツ政権の下で自由党が連立に参加した。そのため、クルツ政権も視野に入れた分析を試みている。ところが、2019年に自由党党首のストラッヘ副首相の辞任により連立が崩壊した。今後、議論の射程をどこまで含めるかを検討する。 昨年一年間の研究成果として、以下のものがある。まず、シュッセル政権について、従来までの政権との違いを分析した論文が、論文集の一章として、昨年中に脱稿したものが2019年5月に刊行された。次に、自由党を、周辺諸国の急進右翼政党と比較して論じた論文を、昨年中に脱稿した。こちらは、2019年9月頃前でに刊行される予定である。さらに、自由党に限らず、右翼ポピュリスト政党が「文化的な反動」であるとするノリスとイングルハートの最新の研究成果(P.Norris and R. Inglehart (2019) Cultural Backlash)を西欧について検討した論文について、5月中の脱稿を目指し現在執筆中で、学会誌に掲載される予定である。並行して、オーストリアのクルツ政権に関わる研究発表を二度行った。そのうちの一つは、2016年の国民議会選挙の結果を概観し、クルツ政権の政権綱領を紹介したもので、もう一つは、クルツ現象の意義を、「ポピュリズムの主流化」という文脈に位置付けたものである。その成果を論文として今年度中に完成させる予定である。また、東欧と西欧の右翼ポピュリスト政党を比較する学会発表も行った。この成果を論文化するには、まだ少し時間がかかりそうだが、クルツ現象の意義を確認するには、不可欠の作業である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画では想定していなかった、オーストリアのクルツ政権の成立について、分析に時間を費やしている。クルツ政権をシュッセル政権と比較するため、デンマークについての研究は、時間の都合上、後回しになっている。デンマークについては、いくつかの論文で比較の対象として扱ったものの、2015年以降の変化や、2019年の国民議会選挙の結果を踏まえて、改めてオーストリアとの比較を検討したい。 研究計画を立てた当初は、2010年前後に右翼ポピュリスト政党が一時的に停滞した時期を想定して、その盛衰を論じる予定であった。しかし、計画提出後、シリア難民危機を契機に右翼ポピュリスト政党は西欧中で勢力を大幅に伸長させ、もはや、これらの勢力が存在しない国の方が例外ともいえる状況である。ドイツやイギリスなど、当初の計画では視野の外にあった諸国でも右翼ポピュリストが躍進し、それと並行して、これらの党についての研究成果もこれまで以上に増大している。こうした状況を踏まえ、研究者間の役割分担を意識して、一人で手広くやるよりも、深く掘り下げられる領域にリソースを集中させるよう、研究戦略を切り替えた。報告者(古賀)の場合、それがオーストリアであったことから、現在進行中のクルツ現象をフォローしている。 しかしながら、肝心のオーストリアで事態が二転三転している状況である。本報告執筆中には、電撃的な副首相辞任と議会の解散、再選挙の報が届いた。さすがに、そろそろ現状をまとめる必要があろうかとは考えているものの(その成果を、本年度中に執筆する予定である)、オーストリアの状況をフォローし続ける必要が高まっていることもあり、当初計画にあったデンマークとの比較は、今後も遅れそうである。とはいえ、当初の計画とは異なるものの、オーストリア自由党は右翼ポピュリスト政党の典型事例であり、その現状を把握することは、比較研究の基礎となるはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の関心に従い、まず、オーストリアにおける現状を確認することを優先したい。具体的にはクルツ政権の成立とその政策的志向について、それぞれ活字化を目指す。それと並行して、オーストリアにおける大統領選挙(2016年)、国民議会選挙(2017年、2019年)、EU議会選挙(2019年)の結果を分析して、ポピュリズム現象が持つ意味について考えたい。 この場合、時間的な制約から、当初計画にあったデンマークとの比較は、今後の課題となる可能性が高い。比較に際しては、個々の事例の精緻な分析が不可欠であり、旧聞に属するシュッセル政権の事例のみでデンマークとの比較を行うよりは、新たな状況も踏まえた上での比較が、学術的により実りが多いものとなろう。 ただし、個々の事例の分析は、周辺の事例との比較を通じてのみ一層の精緻化が可能となる。当初ン研究計画では、政権参加の事例としてデンマークを選択したが、その後の研究の発展により、実質的に急進右翼ポピュリストが政権を担っているハンガリーやポーランドの事例も視野に入れた比較が望ましい、との観点を得るに至った。ただし、かつての「東側」諸国と西側の比較がどのような条件の下で可能であるのか、については、国際的にも、十分な議論が尽くされていないのが現状である。この課題には一人で取り組むのは限界があり、学会報告の際に協力を得た研究者たちとの共同研究が必要となろう。本年度中に協力体制を整えつつ、本格的な比較は今後の課題としたい。
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Causes of Carryover |
当初計画していた海外学会等での報告につき、研究計画に遅れが生じたため、実施できなかった。そのため、旅費支出が発生しなかった。
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Research Products
(2 results)