2017 Fiscal Year Research-status Report
現代ロシアにおける政治体制と選挙:選挙の公正性をめぐるポリティクス
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16K17058
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
油本 真理 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 助教 (10757181)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | リベラル・デモクラシー / 選挙権威主義 / 与党 / 選挙民動員 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、まず、ロシアにおける選挙の実態についての考察を行った。この点について考える際に重要な意味を持つのが、政権が直面するジレンマである。すなわち、政権はできる限り予測可能な形で選挙を行おうとするが、選挙の管理が強まれば強まるほど選挙の正統性が失われるというものである。この点に関する研究成果として、「ポスト冷戦時代のリベラル・デモクラシー―ソ連解体後のロシアにおける民主化とその帰結」(松戸清裕(責任編集)『冷戦と平和共存(ロシア革命とソ連の世紀 第3巻)』、岩波書店、197-220頁)を挙げることができる。同論文では、ソ連解体後のロシアにおけるリベラル・デモクラシーの受容という観点から、エリツィン大統領時代からプーチン大統領再登板後に至るまでの各時期における選挙をめぐる状況を振り返った上で、それがどのような力学に基づいて変容したのかを明らかにした。 また、本年度は、政権側の選挙戦略を考える上で重要な意味を持つ与党「統一ロシア」の動向についても研究を進めた。与党はまさに、政権による選挙民動員を一手に担う存在であることから、政権が選挙に際して直面するジレンマを考えるための格好の観察対象と考えられるためである。特に、2011年下院選挙・2012年大統領選挙に際して政権が与党とは別に「全ロシア人民戦線」に依拠したことは興味深い事象であると言える。この点に関する今年度の成果としては、学会報告“No Longer Putin’s Party? Handling the Unpopularity of United Russia during Putin’s Third Term”(BASEES Annual Conference、2017年4月1日)が挙げられる。このペーパーについては、報告の際に得られたフィードバックを参考にしながら改訂作業を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、(1)政権側の選挙戦略、(2)野党側の選挙戦略および選挙不正の争点化、(3)市民の抗議運動、のそれぞれに密接に関連するトピックとして、政権が選挙の際に直面するジレンマへの対処を軸として研究を進めた。すなわち、政権が、選挙への参入障壁を高く設定することによる政治勢力の排除と、競争的な選挙のアピールによる正統性の確保(および抗議運動の回避)という相容れない方向性をどのように両立させるのかという問題である。この分析視角を採用したことにより、プーチン大統領の第二期目からタンデム時代、そしてプーチン大統領の再登板直後の時期に至るまでのそれぞれの時期において、政権と野党陣営が選挙をめぐってどのような攻防を繰り広げてきたのか、そしてそれがいかなる形で抗議運動などの不安定化につながるのかという点についての見取り図を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、これまでの研究を取りまとめることを目標とする。まず、政権が選挙の際に直面するジレンマとその対処についてさらなる検討を進めることが重要な課題となる。この点について理解を深めるためには直近の選挙にも分析を拡張する必要があることから、来年度は2016年下院選挙、2018年大統領選挙も対象とする予定である。それに加えて、本研究課題における主要なテーマの一つである政権側の選挙戦略についてより多面的な考察を行うため、ロシアにおける選挙において与党が果たす役割とその限界についても情報収集・分析を行う。与党「統一ロシア」の動向および、その不人気に直面して結成された社会運動「全ロシア人民戦線」に関する研究は、平成30年度のうちに論文にまとめ、公刊することを目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、主に、予算の大部分を占める旅費の支出が当初の予定を下回ったことに求められる。今年度は2017年4月および2018年3月の二度にわたりロシアでの現地調査を実施した。そのうち、特に、2018年3月には大統領選挙に合わせる形で比較的長期にわたる現地調査を予定していたが、2017年4月の段階で効率的な資料収集ができたこと、また、インタビュー予定者と事前に連絡を取って効率的にスケジュール調整ができたこと等により、その日数を当初の予定よりも短縮することになった。来年度は現地調査に加えて海外での学会報告を予定しているため、今年度から繰り越した分はそのための支出に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)