2017 Fiscal Year Research-status Report
EUの政府間交渉における交渉戦術としての国民投票の研究
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16K17076
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
武田 健 東海大学, 政治経済学部, 講師 (10704869)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | EU / 国民投票 / 外交 / ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、国民投票の戦術利用について様々な角度かつ事例から研究を進展させた。実際に査読論文(共著)を2編(邦語論文と英語論文)を発表し、国内で学会報告も行なった。研究内容は次の3点にまとめられる。 ①国民投票の戦術利用には主に3つの使い方があることを明らかにした。一つ目の使い方は、批准の際に国民投票で否決される可能性を他国に意識させることによって、自国に有利な妥協を引き出そうとするものである。二つ目は、批准の際に、国民投票を行わないと他国に約束し、その代わりに、自国にとって有利な譲歩を引き出そうとするものである。三つ目は、EUの場で既に決定された案件について国民投票を実施し、そこで表明された民意を梃子に、抵抗の意識を示したり、決定に関して見直しを要求したりするものである。 ②EU憲法条約の交渉の際のイギリス政府とポーランド政府による国民投票の戦術的利用(上記の一つ目の使い方:国民投票を実施すると発表して、他国から妥協を引き出そうとする戦術)についての考察を行なった。考察の結果、その戦術の効果は限定的であったことがわかった。先行研究では、EUの基本条約交渉は、国民投票を効果的に戦術利用できる場面であるとの理論予測がなされていたのだが、実際にはその知見と異なり、この戦術は意図した通りの効果を生み出すことは極めて難しいことを経験的に示した。 ③ハンガリーがEUの難民・庇護申請者の分担受け入れの決定に対して強く反発し、その抵抗の意思を示す一手段として国民投票を実施したが、その国民投票の実施に至るまでの状況についての考察を行なった。他国との比較を踏まえたうえで、同国の当時の政党競争の構図(フィデスとヨッビクの競争)、社会民族的背景、難民を受け入れてきた経験、世論の状況などの視角からハンガリーが国民投票を実施するに至ったその国内の背景条件を浮き彫りにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度には資料の収集・分析に加えて、ヨーロッパ各国でのインタビュー調査を実施することができ、全般的に順調に研究を進めることができた。資料は各国の政府・国会資料やEU諸機関が保持する資料を入手し、多言語にわたるが、自身が使えない言語については翻訳の補助を得て分析を行なった。 インタビューの対象者はEU加盟国の外務省のEU担当官、EU常駐代表、あるいは首相や大統領などの補佐官を務めたものたちである。5カ国7名への聞き取り調査であり、資料や新聞などからはわかりえない実体験に基づく事実関係を把握することができた。さらに、実際に交渉に参加したものたちの意識、認識にも深く掘り下げた聞き取りを行うこととができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、研究の成果を生み出すことにより意識を傾注する。これまでの資料収集・分析やインタビュー調査をもとに、国民投票の戦術利用についての研究成果を出していく予定である。平成30年度には既に国内、国外での学会発表を予定しており、そのためのペーパーの執筆にも着手している。査読論文としての公刊を目指したい。 研究の実質的な内容に関しては、これまでに行なってきた研究に加え、①イギリスのEU加盟についての再交渉(2015-6年:国民投票を行うことを前提とした交渉)についての考察と、②リスボン条約の交渉過程において、国民投票を回避することを条件に、様々な要求をつきつけた国々があるが、その戦術の使い方と効果についての考察を行なう予定である。
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Causes of Carryover |
103,154円の次年度使用額が生じた。その理由は、平成30年度に国外での研究報告を予定しており、その渡航費・滞在費としてやや多めに研究費を残しておきたかったからである。また平成29年度3月の渡欧に要した費用の一部の請求・支出が平成30年度にまたがって行われることも関係している。
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