2016 Fiscal Year Research-status Report
米中協力関係の発展と国際制度の構築:エネルギー・環境・気候変動問題を事例に
Project/Area Number |
16K17077
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
チェン ファンティン 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター法・制度研究グループ, 研究員 (50735371)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 米中関係 / 大国間関係 / グローバル・ガバナンス / 国連気候変動枠組条約、 / レジーム論 / 気候変動 / エネルギー / 環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エネルギー、環境、気候変動分野における米中協力を調査することで、「大国間関係」の構築が国際制度構築に与える影響を明らかにすることを目的としている。「大国間関係」の進展がいかに全体の国際制度構築に影響を及ぼすのかという問いに対して、「大国」である米国と中国との二国間協力枠組の形成と現状に着目し説明を試みる。詳しい事例考察の対象として、エネルギー、環境、気候変動問題をめぐる諸制度の形成を取り上げ、米中協力がどのように寄与してきたのかを明らかにする。本研究によって米中の戦略的協力の実態が明確になり、国際制度の形成において「大国」が担う役割がこれまで以上に明らかになると期待できる。
初年度の28年度において本研究は、「大国間関係」の発展が全体の国際制度構築に及ぼす影響に関して、グローバル・ガバナンス論、レジーム論に基づいた理論的枠組みを構築しようとした。次いで、エネルギー、環境、気候変動問題での「大国」である米国と中国でのフィールドワーク、ヒアリング調査と第23回国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change, UNFCCC)の締約国会議での交渉への傍聴などを通じて、理論的枠組みの妥当性を検証した。この理論構築と検証によって、「大国間関係」の発展と全体の国際制度構築との間の相互影響を明らかにすることが、本研究の最終的な目的としている。
研究代表者はこれまでの研究内容をまとめて、平成29年(2017年)3月に『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』(現代図書)を上梓した。今後は、研究の精緻度を向上させながらこれまでの成果を更に発展・展開させる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は、「大国間関係」の発展と国際制度構築との相互影響を実証するために、当初の研究実施計画に掲げられた次の二点を順調に実施してきた。(1)地球規模課題におけるガバナンス論や、国際レジーム論に基づいた多国間国際制度の形成に関する理論的枠組みを構築することと、(2)年一回開催される国連気候変動枠組み条約の国際交渉及び米国、中国においてフィールドワーク、ヒアリング調査を実施し、収集した情報をもとに実証分析を行うことができた。
具体的に研究代表者は、国内外の研究者、シンクタンクとの情報、意見交換を行い、米中二国間協力事業の実施に携わる企業や政府機関の実務家、または国際交渉の関係者などとの接触を積極的に行った。「大国間関係」の発展と国際制度の構築について理論的枠組みを構築し、米中二国間協力関係の事例を通じて実証しようとしている。事例研究の対象とする米中二国間協力に関して米国と中国でのフィールドワークとヒアリング調査を行ったほか、国際交渉における両国の行動を理解するため、UNFCCCへの傍聴、資料収集及び日本国公式パビリオンにおけるイベント開催(2016年11月)を実施した。
その成果として、2017年2月に米国のボルチモア市で行われた国際関係学会(International Studies Association, ISA)と、2017年4月に台湾の台北市で行われた世界国際関係学会(Global International Studies Conference)で研究報告を実施した。さらに、これまでの研究成果を専門書『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』(現代図書、2017年3月)として出版したことが挙げられる。今後は、著書の内容に対するコメントと指摘を幅広く受けて、今後の改稿と論文を作成する際の参考資料とする。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、前年度に引き続き中国において国際交渉関係者と米中協力事業担当者(企業、政府機関、シンクタンク、教育・研究機関などを含む)にヒアリング調査を実施し、トランプ政権になってから米中間の利害関係の変化など新たな進展を含む二国間協力の状況に焦点を当てて分析を行う。環境協力の成立や事業の立ち上げと現状について、例えば戦略性を持つ代表的な事業である「米中クリーン・エネルギー研究センター」や「米中気候変動ワーキング・グループ」などの実施状況を把握し、米中協力関係が全体の国際交渉と制度構築に与える影響と意義をより緻密に分析する。 また、研究代表者は、平成29年(2017年)3月に『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』(現代図書)を上梓した。同書には、平成28年度に実施した当プロジェクトの調査成果の一部が反映されている。今後は研究の精緻度を向上させながらこれまでの成果を更に発展・展開させるため、大学、研究機関における関連分野の専門家、官公省庁、ビジネス・産業界、NGO、メディアにおける関連分野の実務家及び海外の専門家を含む様々なステークホルダーから率直な意見、コメントないし感想を寄せて頂く所存である。そして頂いた意見やコメント等をプロジェクト実施期間内に詳細に検討し、これを基に研究を修正して最終的に当プロジェクトの研究成果として改稿または論文を投稿する予定である。 さらに、フィールドワークとヒアリング調査の結果を鑑み、理論的枠組みを注意深く修正した上で、最終的な理論的観点を提示する。現地調査については、国連気候変動枠組み条約の交渉現場のみではなく、国内外の関連する学会や有識者会議に積極的に参加し、中間報告の機会を設けるなど、本研究の理論的枠組みに対する客観的な批判・コメントを受ける予定である。
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Causes of Carryover |
旅費は当初計画した金額より経済的に行うことができたことと、人件費・謝金が発生しなかったことが理由として挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
図書『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』の出版に伴い、当初計画していた研究活動を実施するとともに、今後は、研究の精緻度を向上させながらこれまでの成果を更に発展・展開させるため、大学、研究機関、官公省庁、ビジネス・産業界、NGO、メディアなど様々なステークホルダーから頂いた意見、コメントないし感想等をプロジェクト実施期間内に詳細に検討し、これを基に研究を修正して最終的に当科研プロジェクトの研究成果として改稿または論文を投稿する予定である。
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