2016 Fiscal Year Research-status Report
価格の硬直性下における資本財の異質性とその集計的含意
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16K17084
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石瀬 寛和 大阪大学, 国際公共政策研究科, 講師 (80729179)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 価格硬直性 / 最適金融政策 / 開放経済 / 貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
物価変動率にトレンドを持つ2国開放経済の定常状態における性質を分析し、中心的含意をデータで検証した。その結果を各研究会で報告し、得られたコメントをもとにさらなる分析を行った。 物価変化率にトレンドを持つモデルは、一財の閉鎖経済で多く分析されているものの、複数財あるいは開放経済での適用例はほとんどない。物価変化率にトレンドがある硬直価格モデルでは、価格の硬直性の度合いに応じて企業の価格付け行動が変わる。さらに、最適な価格との乖離の大きさに応じて生産量が変化するために、集計レベルで非効率性が発生することが知られていた。適切に財の生産関数を設定することにより、産業レベルでも同様の非効率性が存在すること、価格の硬直性が国及び産業間で異なる場合、それが実質的な生産性の違いを生むことを理論的に示した。このメカニズムは、金融政策が従来議論されている為替を通じた経路ではなく、産業レベルの実質的な生産性という経路を通じて、貿易に影響することを示唆する。端的には「インフレ率の低い(高い)国は、価格が硬直的(伸縮的な)な中間投入財を多く使う産業に比較優位がある」という含意が得られる。世界各国の輸出額やインフレ率、産業ごとの中間投入財の価格の硬直性のデータを整合的に扱えるよう加工した上で含意を検証し、実証的に確認した。 また、このような状況で貿易を行ったときの最適インフレ率に関して理論分析を進めた。閉鎖経済では集計レベルの非効率性を最小とするインフレ率ゼロが最も経済厚生を高めることが知られている。貿易を行う場合にも生産の非効率性は経済厚生を下げるが、輸出財の生産が下がることで交易条件の改善が起こる。古典的な二国開放の貿易モデルの下で、交易条件の改善が、生産の非効率を補って余りあるケースが存在しうることを示し、その場合には経済厚生を最も高めるインフレ率がゼロから乖離することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
物価変動率にトレンドを持つ2国開放経済の定常状態の分析に関しては、当初計画以上に大掛かりなものとなっている。研究会で報告する中で、理論分析を補強する実証分析の必要性に関するコメントを多く得たために、当初計画にはなかった実証分析を行った。実証結果は理論分析と整合的であり、この研究の重要性をより高めることになると考えられる。現在、論文にまとめている最中であるが、今年度前半には複数の国際学会で報告を予定している。得られたコメントをもとに最終的に論文としてまとめ、国際学術雑誌に投稿をする予定である。 一方、閉鎖経済の硬直価格マクロモデルに資本の異質性を導入する分析については、理論分析を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
物価変動率にトレンドを持つ2国開放経済の定常状態の分析に関しては、今年度前半中には論文としてまとめ、国際学術雑誌に投稿をする。 閉鎖経済の硬直価格マクロモデルに資本の異質性を導入する分析に関しては理論分析を進めるとともに、計算機を用いて、資本の異質性と過去の物価変動という側面の相対的な重要性を定量的に検証する。モデルの理論的、実証的側面を踏まえたうえで、望ましい金融政策について分析を行う。結果をまとめ学会発表を行うとともに、フィードバックを踏まえて必要に応じて追加分析を行い、論文としてまとめる。
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Causes of Carryover |
当初計画において、初年度においてワークステーションを調達することとしていたが、計算負荷の大きな分析が始まっていないこと、計算機は調達時期が遅ければ遅いほど同じ価格でも性能がよくなることが期待できるため、28年度は導入を見送った。また、学会開催時期の関連で海外学会での研究報告が28年度になかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
見送っていたワークステーションの調達、および29年度前半に集中した海外学会での報告に必要な旅費とする。
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