2016 Fiscal Year Research-status Report
人口変動を考慮した世代間衡平性と世代間持続可能性の公理的分析
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16K17090
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
釜賀 浩平 上智大学, 経済学部, 准教授 (00453978)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 世代間衡平性 / 人口倫理 / 社会的選択理論 / 公理的分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
人口変動は年金制度をはじめとして様々な制度・政策の持続可能性に影響をもたらすため,世代間の利害調整問題に答えを出すためには人口変動を考慮した規範的評価尺度が必要となる.本年度の本研究課題の成果として,論文1編を作成し,国際学会などにて報告を行った.当該論文では,人口変動を考慮して世代間の利害調整を行うための規範的評価尺度として,臨界水準レキシミン原理と呼ぶ評価尺度を定式化し,その公理的特徴づけを行っている.臨界水準レキシミン原理とは,世代間利害調整に対する世代間平等を志向する評価尺度であり,世代をこえて最も不遇な個人の効用(すなわち,満足度)が高まることを社会的に望ましいものと判定するものである.さらに,世代を構成する人口の変動を,臨界水準効用と呼ばれる効用水準に基づいて考慮し,臨界水準効用より高い効用を享受する個人が世代に加わることは社会的に望ましいものと判定する評価尺度として定式化されている.この評価尺度の公理的特徴付けとは,この評価尺度がどのような望ましい性質を満たす唯一の評価尺度であるのかを明らかにすることであり,各世代の利害は不偏的に等しく考慮されなければならないという条件である匿名性公理や,富裕な世代と不遇な世代の2世代間でのみ利害対立が生じている場合には,相対的な貧富が逆転しない範囲で世代間格差を縮小しなければならないという条件であるハモンド衡平性など,いくつかの公理(望ましい性質)を満たす唯一の評価尺度が臨界水準レキシミン原理であることが示された.この成果は,人口変動を考慮した世代間の利害調整を私たちの社会が検討する際,どのような評価尺度を用いて利害調整をするべきかを示すものであり,本研究で用いた諸公理を私たちが望ましいものとして受容するならば,臨界水準レキシミン原理を用いる他はないことを示すものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は申請時に予定した研究スケジュールにおおむね沿って進んでいる.研究実績の概要で述べた成果論文(タイトル:Infinite-horizon critical-level leximin principles: Axiomatizations and some general results)は,当初の予定に沿って平成28年度内に草稿として完成し,予定通り社会的選択理論の国際学会(13th Meeting of the Society for Social Choice and Welfare)にて報告を行い,有益なコメントを得ることができた.また,国際ワークショップおよび国内大学でのセミナーでも報告をする機会を得ることができ,様々な専門家から有益なコメントを得る機会にも恵まれた.さらに,次年度である平成29年度にも国際学会での報告を申請時に予定していたが,これについても平成28年度内に応募し,現段階では報告の可否が審査されている状況である. 本研究課題では,上述の成果論文で定式化した評価尺度である臨界水準レキシミン原理の他にも,人口変動を考慮した世代間利害調整問題のための様々な評価尺度を定式化し,その公理的特徴付けをおこなうことを目的としているが,そうした追加研究についても順調に着手している.実際,上述の成果論文では,論文タイトルが示すように,臨界水準レキシミン原理に限らず,評価尺度一般に関して成立する一般的な結果もいくつか盛り込むことができた.こうした一般的な結果を足がかりとして,人口変動を考慮した世代間利害調整問題のための他の様々な規範的評価尺度の研究に着手しているが,これも申請時の研究スケジュールに沿ったものである.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度である平成29年度は,平成28年度に初稿を完成させた論文の国際学会報告および国際査読付き雑誌への投稿を第1の課題として取り組む.現在までの進捗で述べた応募中の国際学会での報告が受理された場合は,発表後すぐに最終稿の形として最終チェックを行い,国際査読付き雑誌に投稿する. 次に,前年度に引き続き,人口変動を考慮した世代間利害調整問題のための他の規範的評価尺度の研究を更に進め,平成30年度に国際学会で報告できるように草稿を準備する.具体的な研究内容としては,個人の効用ランクに基づいて効用の割引を行った後に集計する功利主義について,その定式化および公理的特徴付けを行う予定である.この研究には,平成28年度の成果論文で明らかにしたいくつかの一般的な結果を援用しながら,効率的に研究を推進する予定である.草稿が完成した後には,国内大学でのセミナー報告の機会を探し,コメントを収集することに努める予定である. 本研究課題で明らかにしようとする一連の評価尺度は,人口成長が内生的な経済成長モデルに応用することが可能であり,研究課題申請時にもそうしたモデルへの応用を目的の1つとして掲げていた.人口成長が内生的な経済成長モデルへの評価尺度の応用については,平成29年度の後半から,他の研究の進捗度合いと折り合わせながら着手する予定である.具体的には,人口成長が内生的な経済成長モデルに関する最新の研究成果を包括的サーベイすることから始め,本研究課題で示される評価尺度の応用を検討する.しかし,人口成長が内生的な経済成長モデルは,解析的な結果を得ることが困難な場合もあり,そうした場合に備えて,数値シミュレーションを行うための技術習得も平行して行っていく予定である.
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Causes of Carryover |
当初の計画では平成28年度末に成果論文を英文校閲サービスにかける予定であったが,平成28年度に行った研究発表で得た専門家からのコメントに基づいて,論文の構成を大幅に変更するか検討しており,現段階の原稿で英文校閲サービスにかけるのは有益ではないと判断し,サービスをまだ利用していない.これにより英文校閲サービスの利用のために残しておいた使用予定金額が未使用として残ったものである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に予定している国際学会発表の終了後に,当初は平成28年度末に利用する予定であった英文校閲サービスを利用する予定であり,支出項目自体は当初の予定通りのままで平成29年度に使用する予定である.
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