2018 Fiscal Year Research-status Report
J.S.ミルを分岐点とした経済学観の転換に関する研究:価値論を中心として
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16K17099
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Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
吉井 哲 名古屋商科大学, 経済学部, 教授 (10514341)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Equation / 価値論 / 古典派 / 限界革命 / J.S.ミル / リカードウ / 過程分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は"Why did F.D. Graham appreciate T. E. Cliffe Leslie?: Those who challenge the prevailing orthodoxy"を執筆した。本稿は、Springer社から2019年度中に公刊予定の書籍の1つの章に収められる。Grahamは正統派理論はリカードに欠けている点を補完し発展させる事を意図したものであるが、それらはそもそものリカード貿易理論とは相容れない。彼らのせいで貿易理論は路頭に迷ってしまった。それゆえ、これを正すためにも、相互需要説によらない理論を打ち立てなければならないと考え、生産費説による貿易理論を構築した。彼は論文中で"So far as international values are concerned, it seems to me that Mangoldt, Cliffe-Leslie, and Sidgwick adumbrated doctrines which are much nearer the truth than those of more generally accepted writers"と述べている。Leslieはイギリス歴史学派の創始者の一人で、古典派経済学そのものに批判的な人物であった。はたして、なぜGrahamは相容れないと思われるLeslieを高評価するのだろうか? Leslieの立場から見ると、Grahamはあまり評価できないだろう。Leslieは経済学が他の社会科学と切り離されるのを嫌い、また、経済学者が恣意的な世界を作り上げるのも否定した。加えて、彼は自由貿易論者であり、Grahamは保護貿易論者である。全く相容れない両者であろう。本稿は、価値論転換上の謎であるこの点を考察することを目的としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究期間を延長した。延長理由は、私的事情によるものと研究に関わるものの二点がある。私的事情は延長申請書に記載済みである。以下は研究に関わる理由である。 本研究の重要なキーワードは「Equation」であり、その解釈がミル本人と後世では異なることが鍵である。それゆえ、J.S.ミルの価値論を正確に理解するには、彼の数学・論理学に関する思想を摂取する必要がある。この点を詳細に研究する必要があり、遅延が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画書の予定通り”The correct understanding about supply-and-demand principle of J. S. Mill”のジャーナルアクセプトを目指す。遅延理由にも書いたが、J.S.ミルの価値論を正確に理解するには、彼の数学・論理学に関する思想を摂取する必要がある。重要な示唆を与えてくれる文献として、井上琢智「J.S.ミルの数学・自然科学研究」田中敏弘編『古典派経済学の生成と展開』が挙げられるが、このように彼の数学的素養を考慮した上で、言葉で書かれているミルの論理を紐解いていかねば、彼が言う「Equation」と「均衡」の意味は理解できない。 “A study on the mystery of Ricardo’s permission about Malthus' law of supply and demand”に関しては、吉井・徳丸・藤田「不確実性下における企業の価格設定行動―価格水準のみならず価格設定手法自体が環境制約を受ける―」『進化経済学論集』2019年での成果の摂取が可能であろう。なぜならば、現代の製造業は原価企画を採用しているが、これは極めてリカード価格理論と親和性があるからである。こちらの論文もジャーナルアクセプトを目指す。
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Causes of Carryover |
研究期間の延長をしたため。 次年度は、論文の英文校閲費、および文献費に使用予定である。
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