2017 Fiscal Year Research-status Report
観測頻度の異なる多変量時系列データの計量分析 ― 理論とマクロ経済への応用
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16K17104
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
茂木 快治 神戸大学, 経済学研究科, 講師 (60742848)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 計量経済学 / 時系列分析 / Mixed Data Sampling / ホワイトノイズ検定 / 株式市場の効率性 / グランジャー因果性 / 応用マクロ経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、月次の日経平均株価と四半期の日本の民間設備投資の相互関係を分析し、「失われた10年」における設備投資低迷の要因を究明した。分析結果によると、株価の低迷が設備投資に及ぼした影響は、従来考えられていたよりも大きい。従来の分析は、すべての変数の観測頻度が統一されていないと実行不可能であったため、月次の株価の四半期平均をとらざるを得なかった。このため、従来の分析は、株価の影響力を過小推定していた恐れがある。 第二に、観測頻度が大きく異なる時系列間のグランジャー因果性(予測力向上可能性)について、既存の検定よりも高い精度を持つ新たな検定を開発した。既存の検定はパラメータの二乗和に基づいて検定を行っていたのに対して、新たな検定はパラメータの最大値に基づいて検定を行う。この工夫により、標本数に比べてパラメータ数が多いときでも、正確な因果性検定を行うことが可能となった。 第三に、複数の観測頻度が混在する回帰モデルの診断に適したホワイトノイズ検定を開発した。既存の検定は自己相関係数の二乗和に基づいて検定を行っていたのに対して、新たな検定は自己相関係数の最大値に基づいて検定を行う。標本数が少なく、大きなラグに自己相関が存在する場合、新たな検定の検出力は、既存の検定の検出力を大きく上回る。 第四に、新たなホワイトノイズ検定を非定常時系列も含む形で一般化し、複数の国々の株価収益率に応用した。検定の結果、イラク戦争やリーマンショックなどの動乱期において、英米の株価収益率は有意なマイナスの自己相関を有するということが明らかになった。これは株価が部分的に予測可能であることを示唆する。一方、日本と中国の株価収益率についてはホワイトノイズ仮説を棄却できず、両国の株価は予測不可能であるという結論に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた4点の研究成果は、それぞれ別の論文にまとめた。第一に、「失われた10年」の民間企業設備投資に関する論文は、Kaiji Motegi and Akira Sadahiro (2018). Sluggish Private Investment in Japan's Lost Decade: Mixed Frequency Vector Autoregression Approach, North American Journal of Economics and Finance, vol. 43, pp. 118-128 に掲載された。 第二に、グランジャー因果性検定とその一般化に関する論文は、海外学術雑誌においてrevise and resubmitを済ませ、現在審査結果を待っている段階である。 第三に、新たなホワイトノイズ検定を提案した論文は、海外学術雑誌においてrevise and resubmit を行っている最中である。 第四に、ホワイトノイズ検定を株式市場に応用した論文は、海外学術雑誌においてreject and resubmitを済ませ、現在審査結果を待っている段階である。また、本論文の研究成果は、50th Anniversary Seminar, Department of Statistics and Actuarial Science, University of Hong Kongなど、多数の国内外の学会・セミナーにおいて報告した。 以上のとおり、いずれのプロジェクトについても、海外学術雑誌への掲載・投稿が順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、「研究実績の概要」と「現在までの進捗状況」で述べた4本の論文のうち、現時点で採択に至っていない3本の論文を採択に至らせる。特に、パラメータの最大値に基づくグランジャー因果性やホワイトノイズ性の検定を一般化し、仮説検定全般に対して貢献するような研究成果を挙げることを目指す。 また、新たなプロジェクトとして、欠損データ分析とコピュラモデルの融合を実現する。欠損データ分析とは、データの一部が欠損している状況下における適切な統計的推論の行い方を論じる研究分野である。観測頻度の相異なる時系列データの分析は、観測頻度の低い方のデータが一部欠損していると解釈すれば、欠損データ分析の一種であると見なせる。 一方、コピュラモデルは、複数の変数の複雑な相互依存関係を、比較的少ないパラメータで記述することのできる有用なモデルである。これまでの先行研究の中では、データの欠損を伴うコピュラモデルの推定方法は論じられたことがない。コピュラモデルをデータの一部が欠損している状況下でも使用できるように改良すれば、マクロ経済や金融市場の実証分析の幅が大きく広がる。平成30年度は、このような欠損データ分析とコピュラモデルの融合について研究を深める予定である。
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Causes of Carryover |
32905円分の次年度使用額が生じた理由は、消耗品の購入価格と数量が、当初の予定と若干異なったからである。次年度使用額32905円は、文房具やパソコン関連消耗品に充当する予定である。
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Research Products
(14 results)