2019 Fiscal Year Research-status Report
対内直接投資がインフォーマル企業の成長に与える効果: カンボジアの事例
Project/Area Number |
16K17129
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
田中 清泰 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センター 経済統合研究グループ, 研究員 (30581368)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海外直接投資 / 国際貿易 / 特恵貿易協定 / カンボジア / インフォーマルセクター / 雇用 / 生産性 / パネルデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
外資企業をはじめとするフォーマルセクターとインフォーマルセクターについて、カンボジアのデータを活用した実証分析を行った。人口成長率が高い途上国において、輸出産業はフォーマルな雇用を生み出し、インフォーマルな労働者や若い労働者の受け皿となる。貿易がフォーマル・インフォーマルセクターの雇用に与える影響を評価するため、カンボジアの自然実験を活用した。具体的に、EUの特恵貿易制度における原産地規則の改革が、カンボジアの縫製産業に対してプラスの輸出ショック、繊維産業に対してマイナスの輸入ショックを与えた状況に焦点を当てて実証分析を行った。登録企業と未登録企業を含む包括的なデータを分析した結果、フォーマルな縫製工場では雇用増加の効果があり、フォーマルな繊維工場では雇用削減の効果がみられた。一方、インフォーマルな事業所に対しては有意な雇用効果は見られなかった。雇用増加の効果は、主に女性労働者と既存事業所で大きいことが分かった。 上記の研究を拡張して、貿易がフォーマル・インフォーマルセクターの生産性に与える影響を分析した。生産性の変化を計測するために、Economic Census 2011と、Inter-censal Economic Survey 2014 のミクロデータを接続して、カンボジア企業のパネルデータを構築した。分析の結果、縫製産業のフォーマル企業もインフォーマル企業も、2014年時点において、生産性を向上していることが分かった。フォーマル企業は輸出増加の直接的な効果を受けている一方、インフォーマル企業は輸出増加の水平的輸出スピルオーヴァー効果を受けている、と解釈できる。貿易の生産性効果を分析した先行研究は、フォーマル企業のみ分析している傾向があり、本研究はプラスの輸出ショックがフォーマルとインフォーマル企業ともに影響を受ける新しいエビデンスを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カンボジア企業のミクロデータ(Establishment Listing 2009、Economic Census 2011、Inter-censal Economic Survey 2014)を活用して、貿易が雇用に与える影響を実証分析した。また、Economic Census 2011とInter-censal Economic Survey 2014から構築したカンボジア企業のパネルデータを活用して、貿易が生産性に与える影響を実証分析した。こうした実証分析はディスカッションペーパーとして公表できたことから、研究活動は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度において、執筆したディスカッションペーパーを学会などで報告して、研究成果の普及とともに、これまでの研究の課題などを修正していく。こうした修正作業が終わり次第、国際的な英文ジャーナルに投稿していく。また、カンボジア企業パネルデータを活用して、さらなる実証分析を行っていく。例えば、カンボジアには大きなインフォーマルセクターが存在しており、フォーマル化したインフォーマル企業は経済パフォーマンスが向上したのか、パネルデータを活用して分析を進める。
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Causes of Carryover |
当初予定していた国際学会の出張や、国内大学のワークショップ報告での国内出張を取りやめたことで、次年度に使用額が生じた。また、カンボジア企業のパネルデータ構築作業では、Stataプログラムを活用することで作業員の臨時雇用の必要性がなくなり、人件費を削減した。
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