2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17145
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
牛 冰 大阪府立大学, 経済学研究科, 准教授 (90756363)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | うつ病患者の家族員 / 通院患者 / 潜在患者 / 労働時間 / 睡眠時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では、本研究課題における第2弾の実証分析を行いました。具体的には、64歳以下のうつ病患者の家族員に着目し、患者の存在が家族員の労働時間と睡眠時間に与える影響を明らかにしました。 うつ病患者の存在が、家計の労働供給および健康投資の意思決定に及ぼす影響を定量化し、両者の因果関係を解明するため、ランダム実験の設定を疑似的に再現するという分析のフレームワークを用いました。具体的には、まず通院患者からうつ病患者を特定し、その後患者と同一世帯の家族員(個人)を特定しました。「個人を無作為にうつ病患者の家族員に割り振る」というトリートメント(処置)の設定を再現するため、患者の家族員を処置群と対照群に分け、個人の傾向スコアを用いてマッチングし、統計的に類似した個人を選別し比較対象としました。さらに、労働・健康アウトカムの平均処置効果を求めました。 また、うつ病に関して、本分析では新たな指標の作成を試みました。疾患・障害の重症度によって家族員への負担が大きく異なることが実証研究で明らかにされているため、通常のうつ病の病名に、ADL(日常生活動作)データを組み込ませました。さらに、うつ病患者を「通院患者」と「潜在的患者」に分けて分析を行いました。 主な研究結果は、以下の通りです。まず、うつ病患者の存在は、その家族員の労働と睡眠に影響を与えました。また、通院患者のみならず潜在患者による影響も明らかとなりました。労働時間と睡眠時間に関しては、女性より男性の家族員に対する影響が有意に大きかった一方で、勤務形態の変化(フルタイムから他へのシフト)に関しては、男性より女性の家族員に対する影響が有意に大きかったです。 日本における医療・介護費の実証研究は、公的費用に焦点を当てたものが多く、家族介護のコストに着目したものは限られます。本研究は、当該分野における研究の蓄積に貢献することを目指しています。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データ入手の都合上、当初の研究計画から研究テーマの実施順が変わりました(研究テーマ3を先に実施しました)が、研究内容には大きな変更はありません。得られた本研究課題の研究結果は、国際学会および国内の研究会などで発表し、同分野の研究者から有益なコメントや助言をいただきました。それらをもとに、現在、論文の修正作業および投稿の準備を進めております。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究課題の最終年度では、前年度の研究成果に関する論文の投稿を進めると同時に、研究計画のうちの研究テーマ2を実施する予定です(研究内容は申請時のままです)。 研究テーマ2では、「親のメンタルヘルスが子どもへの教育投資に与える影響」についての分析に取り組みます。具体的には、親の子どもへの教育投資に与える影響を定量化し、影響のメカニズムを解明します。親が精神疾患を患うと、子どもへの教育投資が低下します。そこで、精神疾患による家計収入の低下による影響のほか、精神疾患を抱える親特有の家計の資源管理・配分のあり方が、教育投資に関わる意思決定に影響を与える、という仮説を検証します。 最終年度内に、本研究テーマについて得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行います。
|
Causes of Carryover |
当初の研究計画では、ソフトウェア関連の物品購入を予定しておりました。しかし、大学の基盤研究費でそれらを購入できましたため、当該項目においては、当初予定していた支出は発生しませんでした。 次年度使用額と合わせて請求した翌年度分の助成金を、研究のための個票データの購入に使用する予定です。また、様々な国内の学会や研究会に参加する予定であり、その旅費などとして使用することを計画しております。
|