2018 Fiscal Year Research-status Report
少子高齢化時代におけるグローバル・インバランスの理論的・実証的研究
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16K17147
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
稲垣 一之 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (70508233)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国際資本移動 / 経常収支 / 人口高齢化 / 平均寿命 / 高齢者労働参加率 / 米中貿易戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
平均寿命が急速に上昇する国において、高齢者がより長く働くようになった場合に(高齢者労働参加率の上昇)、国際資本移動に有意な変化が生じることを解明することができた。具体的には、高齢期における労働所得の増大は、老後のための貯蓄を減らす効果を持つため、高齢者労働参加率が上昇する国では経常収支(貯蓄-投資)が悪化する(=高齢者労働参加率上昇の効果)。さらに、この効果は平均寿命の上昇によって増幅される。なぜならば、平均寿命の上昇は健康水準の改善を意味するため、高齢者の生産性が上昇して高齢期所得が更に増大するためである(=平均寿命上昇による相乗効果)。これらの結果は、開放マクロ経済学の理論モデルによって裏付けされ、その妥当性はアメリカのデータによって高度に立証された。 以上の分析結果は、平均寿命が世界トップであり、働き方改革によって高齢者の労働参加率が上昇すると見込まれる日本経済に対して重要な示唆を与えるものである。また、高齢者の労働参加率は、アメリカ、カナダ、イギリスなどでは過去10~15年で2倍以上に増えており、世界全体の資本移動に対しても新しい洞察を与えるものである。 前年度の研究成果も含めて、今年度に執筆した1本の論文を当該分野のトップジャーナルに投稿した。査読に1年を要したものの、残念ながら採択されなかった。引き続き同様のテーマで研究を継続させる方針である。 現在は、予定通りさらに分析対象国を絞って、2国間データによるアメリカの対中国経常収支の分析をほぼ完成させることができた。具体的には、中国の平均寿命の急激な上昇が、アメリカの対中国赤字の主な要因となっているという分析結果である。加えて、現在のペースで中国の平均寿命が上昇すれば、アメリカの対中国赤字が減少するという結果も得られた。そのため、米中貿易戦争に対して重要な示唆を与えることができる研究内容になると見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況自体は、当初の予定通りである。理論・実証・シミュレーションの全てを駆使して検証し、本研究で提示した仮設の妥当性を立証することが出来た。しかしながら、学術雑誌からの出版という形での成果を出すことができなかった点が反省材料である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したとおり、「アメリカの対中国経常赤字」の拡大要因として、「中国の平均寿命キャッチアップ」に注目した研究を完成させる予定である。この研究の重要な点は、中国の平均寿命がアメリカの水準に追いつく過程で、最初はアメリカの赤字が拡大するものの、ある水準までアメリカと中国の平均寿命ギャップが縮小すると、次は効果が反転して、増大したアメリカの対中国赤字が縮小するという事実を示したことである。データ解析によって、この効果反転は既に生じていることが判明した。したがって、中国の平均寿命が現在のペースで上昇すれば、アメリカの対中国赤字は自然と解消される。この結果は、米中貿易戦争に対して有益な示唆を与えるものである。 昨年には中国の健康寿命がアメリカの水準を上回ったという事実がニュースに流れるなど、アメリカと中国の健康水準の差は、確かに縮小している。中国の高齢化に関する研究は多数あるものの、そのほとんどの議論が経済成長や社会保障制度などの国内経済変数に限定されている。本研究は、開放マクロ経済学の枠組みで議論を拡張させて、アメリカの対中国赤字問題に対して新しい洞察を与える。 分析そのものはほぼ完成しており、学会・研究会での報告を重ねて論文を洗練させることが大きな目標である。
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Causes of Carryover |
差額は4136円であり、誤差の範囲である。そのため、次年度の使用計画は当初と変わらないと判断される。
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