2016 Fiscal Year Research-status Report
18世紀フランスの農村における酒類小売業の展開―ブルターニュ地方を例として―
Project/Area Number |
16K17157
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
君塚 弘恭 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 専任講師 (70755727)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 社会経済史 / 酒類小売業 / 流通史 / ブルターニュ地方 / フランス史 / 18世紀 / 酒税 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、18世紀ブルターニュ地方の農村で活動した酒類小売業者数の集計と、それに基づき活動場所を把握することを目指した。 本目標を達成するため、私は、まず、パリやロリアンにて、ブルターニュ地方史やフランス流通史に詳しいフランス人研究者に会い、本研究に関する助言を求めた。次に、ブルターニュ地方の各大学に提出された学位論文から酒類小売業者に関するデータの収集に努めた。そして、フランスの国立文書館、イル=エ=ヴィレーヌ県文書館で、それぞれ2度資料調査を行った。そして、これら2つの文書館に所蔵されているブルターニュ地方三部会によって徴収された酒税の記録を収集した。酒税記録は、多くの場合、断片的な情報しか与えてくれないが、1788年のものに関しては、ブルターニュ地方全体についてかなり詳細な情報を得ることができた。また、1768年の同業組合に関する調査記録からブルターニュ地方北西部について貴重なデータを得た。 資料調査とデータ集計から得られた本年度の調査結果は、次のとおりである。第1に、1788年の酒税記録によれば、ブルターニュ地方全体で5966軒の酒類小売業者が、そしてその内4440軒が農村部で記録されている。ブルターニュ地方東部から中部にかけての地域が全体の約76%を占める。この地域は、葡萄酒やリンゴ酒の生産地域と重なるものである。 第2に、農村における酒類小売業者は、小教区町 bourgs paroissiaux に店を開いた。これらの町は、教会のある小教区の中心であり、定期市が開かれ、多くの場合街道沿いに位置している。 第3に、1年を通じて開かれている店は多くないようである。例えば、カンペール司教区で1月から2月にかけ283軒の酒類小売業者が記録されたけれど、9月から10月にかけては、53軒と激減する。この理由については、次年度以降の課題の中で考察を深める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、18世紀フランス農村における酒類小売業者の活動についてブルターニュ地方を例として明らかにしようとするものである。平成28年度末の時点における本研究の進捗状況は概ね予定通りであると考える。以下、その理由について説明する。 本研究が採択された後、私は、平成28年6月からインターネット等を通じて研究テーマに関する書籍、論文の調査を行い、収集に努めた。また、フランス人研究者とメールで連絡をとり、研究に関する助言を求めた。これらの助言に基づきながら、私は平成28年8月に1週間(パリ)、平成29年3月に1週間(レンヌ)、フランスで資料調査を行った。また、現地で、フランス人研究者と会い、未刊行論文の所在等、日本では得られない情報の入手に努めた。その結果、平成28年度の目標としていた酒税記録を主とする酒類小売業者の数を把握するうえで利用可能な史料を網羅的に収集することができた。 研究成果の発表については、平成28年度は初年度であるため、当初から国内学会への貢献を中心とした。私は、まず、平成28年4月に、京都大学の主催する史学研究会にて、本研究課題と関連する葡萄酒の輸送業者に関する報告をした。また、同年12月には、早稲田大学で開かれたセミナーで、ワインの歴史に関する報告をし、フランス革命研究会にて18世紀ブルターニュ地方で試みられたアルコール飲料の専売制について報告した。さらに、国内の学術雑誌に関連テーマで論文を投稿し、掲載された。また、平成28年度に行った調査研究の成果は、平成29年度に、ドイツのチュービンゲン大学で開かれる国際学会にて報告の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、ブルターニュ地方農村社会における酒類小売業者の位置づけを探る。酒類小売業者の資産について指標を得るべく、私は、平成29年3月にレンヌのイル=エ=ヴィレーヌ県文書館で資料調査を行い、18世紀の人頭税に関する記録を参照した。しかし、農村における記録は保存状態も悪く、また保存されていたとしても具体的な職業が記されないなど問題が多いことがわかった。また、農村における居酒屋が多く開かれるのは、小教区の中心であり、かつ定期市の開かれる小教区町である。平成29年度は、フィニステール県文書館とロワール=アトランティック県文書館で資料調査を行い、小教区町で記録された人頭税記録から酒類小売業者が農村社会においてどのような位置にあったか考察する。 次に、平成30年度の研究課題と関連し、酒類小売業者の営業の実態について破産文書に加えて裁判記録を参照する。私は、酒税記録の調査の際、酒税に関する不正行為に関する文書を発見し、これらの文書には不正摘発の経緯だけでなく、不正を行った酒類小売業者のアルコール飲料の販売記録も残されている。したがって、これを用いて、居酒屋の活動を再構成することも可能であり、帳簿史料の不足を補うことができよう。これらの文書は多くの場合、裁判記録関連文書として保存されている。 研究成果の公表は、平成29年9月にドイツのチュービンゲン大学で開催される国際学会で行われる他、投稿論文も準備中である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、次のとおりである。すなわち、平成28年8月ベルゲンで開催された国際経済史学会に参加予定であったが、募集されたテーマが本研究課題と一致しなかったため、参加を見送った。このため使用できなかった85,999円を次年度である平成29年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額として繰り越された研究資金については、平成29年9月と平成30年3月に予定している資料調査、および書籍の購入に使用する。
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