2017 Fiscal Year Research-status Report
18世紀フランスの農村における酒類小売業の展開―ブルターニュ地方を例として―
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16K17157
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
君塚 弘恭 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 准教授 (70755727)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヨーロッパ史 / フランス史 / ブルターニュ地方 / 小売商人 / 商業史 / 社会経済史 / アルコール飲料 / 居酒屋 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀フランスの農村における酒類小売業の実態調査を目的としている。平成29年度は、前年度の成果と問題とを引き継ぎつつ、次の2つの問題群について調査を進めた。 (1)農村の居酒屋の営業規定に関する法令の調査 (2)農村の居酒屋の営業実態の調査 本目標を達成するため、私は、フランスのフィニステール県文書館(ブレスト)で、資料調査を行った。また、居酒屋の営業に関する修士論文など公刊されていない研究を南ブルターニュ大学付属図書館で調査した。資料調査とデータ集計から得られた本年度の調査結果は、次のとおりである。第1に、18世紀ブルターニュ地方では、ナントの事例を除いて都市部でも農村部でも居酒屋の同業組合は存在せず、自由職業であった。ただし、居酒屋を開くにあたり、毎年、年税をブルターニュ地方三部会に支払うことが決められていた。その際、居酒屋を開こうとする人は、酒を出す時に用いるための壷や瓶、秤を徴税請負人に見せる必要があった。また、営業時間については、ブルターニュ高等法院の決定により、日曜のミサの時間に開くことが禁じられていた。第2に、農村における酒類小売業者の営業に関連し、居酒屋には一年中開かれていたものと、特定の時期のみ開かれたものと、二つのタイプがあった。例えば、ポンティヴィ市郊外で記録された酒税記録によれば、二件の居酒屋は、大市にあわせて開かれた。また、定期市に加えてブルターニュ地方で毎年夏に開かれるパルドン祭はアルコールの消費量を増加させ、居酒屋の営業に影響を与えた。また、居酒屋は、必ずしもそれが位置する場所の住人によって経営されていたわけではなかったし、いわゆる「老舗」が多いわけでもなかった。例えば、ユゼルの近くの村に住む商人、イヴ・マルミニョンは、ブレスト市で宿屋を5ヶ月間だけ開いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に引き続き、平成29年度も、私は、インターネット等を通じて研究テーマに関する書籍、論文の調査を行い、収集に努めた。また、フランス人研究者とメールで連絡をとり、研究に関する助言を求めた。これらの予備調査に基づきながら、私は平成29年9月に1週間(ブレスト)、平成30年3月に1週間(ロリアン)、フランスで資料調査を行った。また、現地で、フランス人研究者と会い、未刊行論文の所在等、日本では得られない情報の入手に努めた。その結果、平成29年度の目標としていた酒類小売業者の営業に関する規定や営業の実態を把握するうえで利用可能な史料のいくつかを収集することができた。ブルターニュ三部会による酒類販売に関わる決定、酒税徴税事務所によって記録された脱税に関する文書、市場町で活動した酒屋の帳簿を見つけることができた。また、居酒屋の営業に関する修士論文など公刊されていない研究を南ブルターニュ大学付属図書館で調査し、農村研究の一環として集められたデータから居酒屋に関するものを見つけることができた。 しかし、他方で、農村の酒類小売業者の資産を把握するデータの網羅的な収集はほぼ不可能であるとわかった。特に資産を推計するために不可欠な史料である人頭税記録は、都市では詳細なデータが残っているものの、農村について見つけることは困難である。また、農村で営業した居酒屋や宿屋の営業書類は少なく、むしろ都市の卸売商の記録に残る農村の居酒屋を調査した方が彼らについて多くの情報を収集できることもわかった。 研究成果の発表については、私は、平成29年9月に、ドイツのチュービンゲン大学で開かれたヨーロッパ経済史学会で、本研究課題の直接的成果として、18世紀ブルターニュ地方における居酒屋の営業について報告した。ここでは、参加者からデータ分析の方法などについて示唆的なコメントをもらった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成30年度は、次の2つの方向で研究を進める。 (1)収集した資料の分析と検討 まず、本研究課題の総括として、収集した資料を分析、検討し、調査結果をまとめる。具体的には、第1に、居酒屋の数をこれまで収集したデータに基づいて教区ごとに集計しなおして分布図を作成する。この地図を手工業の発展した地域を示す地図や特に人口の分布図と比較して居酒屋の分布の特徴を分析する。第2に、居酒屋関連の法令や裁判記録から、農村で居酒屋が活動するときに権力機構がどのように関わったかについて考察する。第3に、酒類小売業者の営業の実態について破産文書や裁判記録を参照して具体的に示す。特に、フィニステール県文書館で収集した徴税請負事務所で登録された小売商の帳簿は、ブルターニュ地方西部の農村で活動していた居酒屋の営業やそこで販売された酒の種類、価格について多くの情報を与えてくれる。また、南ブルターニュ大学に提出された修士論文から、ブルターニュ地方内陸部の市場町で活動した居酒屋の客層について興味深いデータを得ることができた。これらを分析することにより、農村の居酒屋について総合的に描き出すことが可能となろう。 (2)研究成果の公表 研究成果の公表は、投稿論文を2本準備中である。1つは、居酒屋の営業を分析して18世紀フランス農村における酒類流通の実態を解明したものであり、国内の学術雑誌に向けて準備している。もう1つは、ブルターニュ三部会のための酒税を集めていた徴税事務所が行っていた酒の販売に関するもので、フランスの学術雑誌向けに準備している。これら投稿論文の他に、本研究課題と関連する論文として、ワインと健康に関する論文を論文集向けに準備する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は次の2つである。 まず、平成28年度に25万を平成29年度に繰り越したことによる予算の変更が生じたこと。次に、平成29年度の9月の資料調査は、ドイツで行われた学会の後に続けて行ったため、学会参加のための早稲田大学からの補助を受けた結果、予定より支出が少なかったからである。
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