2021 Fiscal Year Research-status Report
商標の実証分析:イノベーションの代理変数としての利用可能性と企業成果への効果
Project/Area Number |
16K17168
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中村 健太 神戸大学, 経済学研究科, 准教授 (70507201)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 商標 / イノベーション / 実証研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の主たる目的の一つは、イノベーションの代理変数としての商標の有用性を確認することにある。他方で、Herz and Mejer (Oxford Economic Papers, 2016) は、商標の出願件数と出願料の弾力性の関係を実証的に分析し、出願料の弾力性が十分に大きいことを見いだしている。また、欧州における商標の出願増加の大部分は価格変化で説明できると論じるなど、商標の出願件数や保有件数を無条件にイノベーション指標として用いることへの懸念が示されている。そこで、2021年度は、我が国で実施された2008年6月の料金改定(引き下げ)が権利者の行動(権利の更新)にどのような影響を与えたかを分析した。
出願人は、出願時点に10年後の制度変更(料金改定)を予測することはできないため、出願人にとって制度変更は外生的なショックと見なすことができる。制度変更後に権利更新の判断を行う商標を「処置群」、制度変更前に権利更新の判断を行う商標を「対照群」とした。不連続性の閾値付近で各出願が制度変更前・後のどちらに属するかはほぼランダムであり、また、不連続性が発生する境界近辺では、処置群と対照群で料金以外の影響が平均的には等しいとみなすことができる。こうした状況を利用して、閾値前後での権利更新率の変化を推定することで料金改定が権利更新の意思決定に与える影響を推定することができる。
推定結果では、料金の引き下げが権利更新率を2.5%から3%程度上昇させたことが確認された。このことは、商標をイノベーション指標として利用する際の留意点として、料金改定が企業等の保有イノベーション数と保有商標数を乖離させる要因になることを示唆している。なお、上記分析で得られた知見の一部は、中村(2022)「不使用商標に関する分析」(特許庁『我が国の知的財産制度と経済の関係に関する調査報告』)にも反映されている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
補助事業の延長期間中に、海外の研究協力者等からアドバイスを仰ぎ、研究を深化させる予定であった。新型コロナウイルス感染症の影響により渡航ができなかったことなどを踏まえ、「遅れている」と判断したが、商標制度の料金変更と出願人行動について新たな分析を行うことも出来た。
|
Strategy for Future Research Activity |
補助事業の延長期間中に、海外の研究協力者等からアドバイスを仰ぎ、研究を深化させる。助言を元に投稿用論文を改訂し、掲載を目指す。研究結果を統合し、特許データでは接近が難しかった非技術的イノベーションの実態解明に向けた商標データの利用可能性とその限界についてまとめる。成果の一部は2022年度内出版予定の書籍に収録予定である。
|
Causes of Carryover |
【理由】海外研究協力者との日程調整がつかなかったため、主として研究打合せを目的とした旅費の一部を次年度に繰り越した。 【使用計画】繰り越した旅費は海外での成果報告に使用する予定であったが、現在の渡航制限がしばらく解除されない場合は、英文校閲費など成果のとりまとめに係る費用にあてる。
|
Remarks |
中村健太(2022)「不使用商標に関する分析」『令和3年度我が国の知的財産制度が経済に果たす役割に関する調査報告書』、pp. 28-59、一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産研究所.
|