2017 Fiscal Year Research-status Report
消費者の情報提供意図を促す情報開示と傾聴姿勢の効果
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16K17197
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Research Institution | Chiba University of Commerce |
Principal Investigator |
松本 大吾 千葉商科大学, サービス創造学部, 准教授 (60434271)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マーケティング・コミュニケーション / 広告 / 傾聴 / listening / 人的販売 / インタラクティブ・コミュニケーション / 共感 / 測定尺度 |
Outline of Annual Research Achievements |
インターネット環境の充実とスマートフォンなどモバイル機器の普及によって、消費者は企業に対していつでもどこでも自由に意見を言うことが可能となった。こうした動的主体としての消費者像を想定した場合、企業には消費者の意見に耳を傾ける聞き手としての立場が求められる。以上の問題意識のもと、本研究ではマーケティング・コミュニケーションの要素のひとつである人的販売の文脈において議論されてきた「傾聴(listening)」という概念に注目し、その概念整理および測定尺度の開発を試みる。さらに、企業(販売員、その他コミュニケーション手段を含む)による傾聴が消費者とのインタラクティブ・コミュニケーションを促進し得るのかを検討する。 2年目となる平成29年度は、人的販売領域における傾聴研究のうち、測定尺度開発を行っている研究に焦点を絞りレビューした。その内容を「インタラクティブ・コミュニケーションにおける傾聴尺度の概観:マーケティング・コミュニケーションの視点から」という論文(千葉商大論叢、第55巻、第1号)としてまとめた。結果として、傾聴概念は3次元構造であり、表現の差異はあるものの「身体的感知」、「心的処理」、「応答行動」で構成されていることが分かった。一方で、類似概念としての「共感(empathy)」との弁別が不十分であること、さらに傾聴それ自体も傾聴態度(例えば、聞き手の熱心な様子)と傾聴行動(例えば、聞き手による問いかけ、ジェスチャーなど)の弁別が明瞭ではない可能性が見出された。以上の課題はあくまでレビューによって整理したものである。したがって、今後は実際に量的データに基づき、傾聴概念および共感概念を整理する。当該論文では先行研究における測定尺度の翻訳作業にも取り組んだ。また、看護や臨床心理学領域における傾聴尺度も整理したため、こうした作業を円滑に進めることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の鍵概念である傾聴の測定尺度開発にむけて着実に議論を積み重ねてきている。先行研究における測定尺度の課題を整理し論文として公開することができた。マーケティング以外の領域の研究にも目を向けることで、傾聴概念に対する深い理解が得られた。先行研究の測定尺度の翻訳作業は終えており、現在は量的データ収集のための調査計画を進めている。上記作業に基づき、3年目となる平成30年度中に複数回の量的調査を実施する予定である。文献研究を通じた議論の整理は引き続き取り組む。特に、先行研究における共感概念の理論的背景として依拠されているCarl R. Rogersの考えについて理解を深める。
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Strategy for Future Research Activity |
文献研究を通じて示した課題である傾聴概念と共感概念の弁別、および傾聴態度と傾聴行動の弁別(あるいは整理)について、量的データに基づき取り組む。具体的には、先行研究で提案されている次元間の関係を探る。人的販売における傾聴尺度開発で引用数の多いRamsey and Sohi(1997)、そのRamseyらのモデルを用いて共感概念の役割を検証したAggarwal et al.(2005)、Aggarwalらも引用している臨床心理学の領域で著名なRogersの考えに基づき、日本語版の傾聴評価尺度を示した三島・新小田(1999)、社会心理学や臨床心理学の立場から、聞き手の行動的側面の評価尺度開発を試みている伊藤・鈴木(2006)、過去に研究代表者が取り組んだ研究(松本,2014)を候補として、それぞれの傾聴や共感に関する尺度の共通性、差異性を検証する。 傾聴の定義と次元は文脈特定的であるというBergeron and Laroche(2009)の指摘を参考にして、本研究では、B to Cカテゴリーにおける販売員と消費者の関係を対象とする。また、傾聴研究では、①話し手による聞き手の評価、②聞き手自身の評価、③双方による評価といった視点が存在するが、本研究では①話し手(消費者)による聞き手(販売員)の評価を対象とする。具体的な取引状況は先行研究を参考にしながら選定する。取引状況やサンプルを変えながら、複数回の量的データの収集と検証を実施する。上記の研究成果を学会報告や論文執筆を通して公開する。
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Causes of Carryover |
(理由) 文献研究を通じて、当初想定していた鍵概念のうち、傾聴概念の重要性が明らかになった。また、傾聴概念と共感概念との弁別という新たな課題を得た。そのため、平成29年度に予定していた量的データの収集を急がず、申請時の計画よりも時間をかけて文献研究を充実させることとした。 (使用計画) 平成29年度中に量的データの収集に向けた調査計画および実作業に着手しており、現在は調査票の作成を進めている。平成30年度中に複数回のインターネット調査を実施する予定である。傾聴概念の測定は文脈特定的であるという先行研究の指摘を参考にし、まずは人的販売に対象領域を絞る。そのうえで、B to Cカテゴリーにおける販売員(営業担当、プランナーなど含む)と消費者の取引状況を想定した調査を行う。異なる取引状況の調査を複数回実施し、分析結果の一般化を試みる予定である。
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Remarks |
講演「顧客心理:ブライダルコーディネーターと顧客とのコミュニケーション」、日本ブライダル文化振興協会、ブライダルコーディネーター養成講座、2017年8月24日(セルリアンタワー東急ホテル)・2017年8月31日(帝国ホテル大阪)
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