2016 Fiscal Year Research-status Report
産業財市場における戦略的マーケティングに対する経営資源配分の管理会計学的研究
Project/Area Number |
16K17205
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
君島 美葵子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (50645900)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 営業費 / 顧客セグメント / 顧客接点 / 経営資源配分 / 原価配分 / 産業財マーケティング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,産業財市場での国際マーケティング戦略立案の源泉となる「経営資源(原価)配分」の理論化を実現するために,マーケティング管理会計とセグメント管理会計の先行研究を分析した。マーケティングの体系は,「個々の顧客が有するニーズ」と「顧客需要構造」との関係性に応じて変化することから,「顧客」概念に注目した。本年度の研究実績は,原価配分研究が行われた経済的・社会的背景を整理した点,顧客セグメントに対するマーケティング活動原価の配分方法を考察した点,顧客接点の戦略的活用に対する管理会計技法の役立ちを調査・分析した点があげられる。 まず,原価配分研究が行われた経済的・社会的背景では,コンピュータによる統合生産システムの発展と先端技術製品の開発に焦点を当てた。このような背景において,管理会計技法の議論は1980年代に大きな展開を見せた。たとえば,その展開例の『レレバンス・ロスト』では,マーケティング管理会計研究の発展方向として,ABCを提唱した。その一方で,CAM-Iのプロジェクトでは,ABCを含めた複数の管理会計技法を新たに提示した。 次に,顧客セグメントに対するマーケティング活動原価の配分では,「マーケティング活動原価を顧客セグメント別にいかほど跡づけるか」を正確に把握するための管理会計技法を考察した。ここでは,企業活動とそこから発生する活動原価の因果関係を捉える原価階層概念が原価配分に有用であることを説明した。 最後に,顧客接点の戦略的活用に対する管理会計技法の役立ちを考察した。数ある顧客接点の中で,コールセンターを取り上げた。近年のコールセンター・マネジメントでは,コールセンター応対と財務指標を通じた経営管理の見える化,コールセンターのプロフィットセンター化と業績評価のフレームワーク構築という視点から管理会計適用が可能であることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,「産業財市場での国際マーケティング戦略立案の源泉となる経営資源(原価)配分の理論化」を掲げている。この目的の発展方向は2つあり,理論構築研究としての発展と,企業の経験に基づく事例研究としての発展があげられる。本年度は次のような達成状況となった。 先に示した研究概要のとおり,平成28年度は3つの側面から研究成果を発表した。まず原価配分研究が行われた経済的・社会的背景を整理した点は「CAM-Iがコスト・マネジメントへ与える影響―CAM-IとRelevance Lostとの接点から―」(『横浜国際社会科学研究』第21巻第6号,2017年),次に顧客セグメントに対するマーケティング活動原価の配分を考察した点は「ABCの展開と原価階層に関する一考察 ―C. T. Horngrenの研究を中心に―」(日本会計研究学会第75回大会,2016年9月14日),そして顧客接点の戦略的活用に対する管理会計技法の役立ちを調査・分析した点は,「顧客接点としてのコールセンターに対する管理会計適用の一考察―戦略的コールセンター・マネジメントに向けたインタビュー調査―」(『横浜経営研究』第37巻第1号,2016年)が研究成果となる。 次年度に向けては,以下のような課題が明らかになった。それは,現代企業を取りまく情報通信技術と電子商取引の急速な発展を考慮した販売・マーケティング活動への管理会計適用である。特に,産業財市場における販売・マーケティング活動に関するグローバル戦略を設計する際に,検討を要する点と認識される。このような研究項目は,マーケティング管理会計研究の発展の方向性を鮮明に示すことに貢献すると考えられる。したがって,本年度は当初予定の研究に加え,新たな研究視点も発見したことから,本研究課題は,おおむね順調に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,マーケティング管理会計とセグメント管理会計の先行研究を「顧客」軸から分析した。また,インタビュー調査にも着手することができ,近年の顧客接点の戦略的活用に対する管理会計適用を考察した。今後の推進方策は以下のとおりである。 まず,日本企業を対象とした産業財マーケティングの経営資源配分に関する実態調査を通じた,産業財市場における管理会計適用の現状把握を行う。産業財市場が対象とする顧客は,消費者としての営利企業,政府組織,各種機関などがあげられ,さらに国内外を拠点とする非常に広範な市場を想定している。そのため,産業財マーケティングとその管理会計適用は,各企業で相違する取引に依拠することは想像に難くない。したがって,産業財を扱う企業属性を主とした調査対象を早急に選定し,実態把握に着手する必要がある。 次に,平成28年度で新たな課題として掲げた現代企業を取りまく情報通信技術や電子商取引の急速な発展,それに対する管理会計との関わりを明らかにする。ここでの管理会計とは,マーケティング管理会計とセグメント管理会計が該当する。このような研究を通じて,産業財市場が対象とする個々の顧客へどれだけのマーケティング経営資源投資を行うかという意思決定,あるいは投資を踏まえた各種マーケティング活動の業績評価を考察する。 以上のことから,今後の研究は,平成28年度からの継続的な理論研究と,質問票調査,および企業へのインタビュー調査など,企業の経験に基づく事例研究へと展開する。これらの研究を遂行することによって,理論構築から理論適用へと重点を円滑に移すことができる見込みである。
|