2016 Fiscal Year Research-status Report
ケース・スタディに基づく日本的予算管理の研究―資源再配分メカニズムに着目して―
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16K17209
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
足立 洋 県立広島大学, 経営情報学部, 准教授 (60585553)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 予算目標 / 業績評価 / 相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,予算管理における期中の資源再配分メカニズムの日本的特徴をケース・スタディの方法により考察することである。平成28年度は,この目的に照らし,必要な文献の調査を行ったうえで,主に鹿児島県の株式会社現場サポートにおけるインタビュー調査を行い,同社における予算管理プロセスについてのケース・スタディを実施した。 文献調査によれば,事業環境の不確実性が高い場合には,予算目標を期中修正することで資源の再配分を行い,組織成員を環境の変化に適応した行動に向け動機づけることが可能であるとされてきた。しかしその一方で,職務の不確実性が高い場合には,予算目標の達成度による業績測定は管理者に負の心理的影響を及ぼすことがあるとの研究結果も示されていた。 そこで報告者は,株式会社現場サポートにおけるケース・スタディを通じて,この点を考察した。その結果,高不確実性下で固定された予算目標による業績評価を行っても,日常的な相互作用プロセスが密に行われることで,管理者に対する負の心理的影響を抑止することが可能であるということが明らかになった。この相互作用プロセスは,通常論じられてきたような,単に事業環境の変化に関する情報を共有し,対処策を検討するためのプロセス(Lorain 2010)ではなかった。それは,日々の朝礼や経営計画書の勉強会といったイベントを通じて組織成員の事業環境に対する理解を日常的に促進することで,目標の達成度を事後に評価する際,その評価に対する納得度を高めるものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実績においては,予算管理における資源再配分が行われた場合に,業績評価による管理者への負の心理的影響の発生を小さくするうえで,日常的な相互作用プロセスによる事業環境への理解の深化が大きな役割を果たすことが明らかになった。 先行研究では主に予算の見直しプロセスを中心とした予算制度の運用面に焦点が当てられ,予算管理を不確実性の高い事業環境下でどのように実践するかという点が考察されてきた。これに対して,本研究の研究目的においては,当初より予算制度の運用面だけでなくそれに関連する経営管理の仕組みにも焦点を当てることを重視している。 平成28年度の研究活動では,日常的相互作用プロセスという経営管理の仕組みについて,具体的にどのように実践され,どのような効果を生み出すかというところまで踏み込んで考察することができた。その意味においては,当初計画された研究課題の鍵となるポイントについて,調査するだけでなく理論的に考察することまで進めることができた。この部分に関しては,当初の予定よりも研究活動が順調に進展したと言うことができる。 一方,こうした日常的な相互作用プロセスが日本的経営実践の特徴に照らしてどのような意味を持つのかという点については,現在のところ明確にはできていない。当初の交付申請書では,調査の準備段階として,日本的経営実践の特徴を文献から整理することを予定していたが,この点については若干の文献調査を行ったものの,現在のところ上述のケース・スタディのデータと関連付けることが十分にはできていない。 以上より,本研究課題の平成28年度末における進捗状況を,総合的にみて「おおむね順調に進展している」と評価したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究課題の推進方策としては,①日本的経営に関する文献調査をさらに進める,②ケース・スタディの範囲の拡大,③必要に応じて質問票を用いて予算管理と業績評価に関する実態およびそれについての管理者の認識の実態を調査する,の3点を予定している。 ①については,収集した事例データのどの部分がどのような意味において日本的であるのかを考察することによって,本研究課題の研究目的を完遂するために行う。②については,現時点で実行済みのケース・スタディが,特定の企業の経営者および限られた人数の管理者に対するものであるため,理論的考察の一般性を高めるためにさらなるケース・スタディの蓄積を行う予定である。③については,②と同様に理論的考察の一般性を高める目的で行う。ただし,本研究課題はケース・スタディによって予算管理実践のプロセスを詳細に考察することを一つの特徴としているので,サンプルデータとしては②の補助的位置付けとする。 実施時期としては,①は主に平成29年度,②は平成29年度から30年度にかけて実施する予定である。また,①と②がおおむね完了したところで,平成30年度を目途に,①と②から得られた知見を検証する目的で,③を実施することを検討している。
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Causes of Carryover |
平成28年度は,主にケース・スタディのためのインタビュー調査と,調査結果から得られた知見の発表のための学会参加を目的として,支出を行った。その一方で,文献調査については,論文検索サイトで入手できる文献を中心として実施したため,物品費がほとんど発生していない。また,文献複写についても,管理会計関連の文献については複写を行ったが,それ以外のテーマのもの(例えば日本的経営に関するもの)については,他の研究課題と重複することから,他の研究課題の研究費から支出を行ったた。そのため,平成28年度の「その他」の支出額は少額にとどまっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は,さらなるケース・スタディの実施を目的とした調査先企業へのインタビュー調査出張,学会への参加,日本的経営に関する文献収集などを中心として支出を行う予定である。特に,日本的経営に関する文献の収集・調査に関しては,論文ではなく書籍として発行されているものが多数存在するので,平成28年度に収集できなかった分について収集作業を行う予定である。
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Research Products
(4 results)