2020 Fiscal Year Research-status Report
証券発行による資金調達と利益マネジメントに関する実証分析
Project/Area Number |
16K17211
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
山口 朋泰 東北学院大学, 経営学部, 教授 (50613626)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 利益マネジメント / 実体的裁量行動 / 連続増益の達成 / 利益ベンチマーク / 株価の維持 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は証券発行と利益マネジメントの関係を実証的に分析するものである。本年度は,当初の研究実施計画にはなかったが,証券発行に関わる事象と利益マネジメントの関係についてさらなる分析を実施した。具体的には,証券価格に影響を与える連続増益という事象に着目し,当該事象と実体的裁量行動(事業活動の操作を通じた利益マネジメント)の関係を調査した。 連続で増益を報告している企業は,株式市場において高い株価を維持している一方で,連続増益が途切れた時点で大幅な株価下落を経験することが知られている。こうした状況において,連続で増益を計上している企業の経営者は,株式市場における株価下落のペナルティを避けるために,増益を維持する強いインセンティブがあると考えられる。その際,経営者は利益を調整して増益を維持しようとするかもしれない。そこで,本年度は日本企業の経営者が連続増益を維持するために利益増加型の実体的裁量行動を実施しているか否かを検証した。 分析の結果,連続増益企業ほど,利益変化の分布のゼロ付近の不連続性が高い (すなわち,小さい減益を計上する企業の頻度が極端に低い一方で,小さい増益を計上する企業の頻度が極端に高い) ことを確認した。また,小さい増益を計上した観測値を対象に,連続増益企業ほど,利益増加型の実体的裁量行動を実施するという結果を得た。これらの分析結果は,連続増益企業ほど,減益回避のために (すなわち,連続増益を維持するために) 利益マネジメントを実施したこと,その手段として実体的裁量行動を利用したことと整合的である。 連続増益の達成と実体的裁量行動の関係を調査した研究はこれまでになく,新規性が高い。なお,研究成果は「連続増益の達成と実体的裁量行動」という題目で,『東北学院大学経営学論集』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画にあった外国人投資家が証券発行と利益マネジメントの関係に与える影響について調査が進まなかった。一方で,当初の研究実施計画にはなかった連続増益達成を目的とした利益マネジメントに関する研究成果が出た。そのため,「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画にあった外国人投資家の視点からの分析を実施していないため,その観点からの分析を実施することが考えられる。また,本研究課題に関するこれまでの分析結果を集大成として研究書等の形でまとめ,研究成果を広めることも推進方策として挙げられる。いずれにしても,本研究課題を推進するために,周囲の研究者の意見を積極的に取り入れて,研究をより洗練させる予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため,旅費の支出がなかったことが次年度使用額が生じた最大の理由である。次年度においては,研究成果を学会で報告するための旅費として,あるいは本研究課題に関するこれまでの研究成果の集大成を社会に広めるために作成予定の研究書等の献本代として使用する予定である。
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