2016 Fiscal Year Research-status Report
資本コストをベンチマークとした利益マネジメントに関する分析
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16K17212
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
平屋 伸洋 明治大学, 経営学部, 専任講師 (50715224)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 会計学 / 資本コスト / 利益マネジメント / 利益調整 / 企業価値評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,資本コストをベンチマークとした利益マネジメントについて包括的に分析することを目的としている。企業は資本コストを上回るリターンを獲得しないかぎり持続的成長や企業価値の向上を望めないとされる。そのため経営者は,リターンから資本コストを差し引いたスプレッドをプラスにする利益マネジメントを行うのではないかと予想し,分析を進めた。具体的に,平成28年度は「資本コストをベンチマークとした利益マネジメントの有無-ヒストグラムと標準化差異検定を用いた検証」という研究課題について取り上げた。 当初は,全業種サンプルを対象とした分析を想定していたが,文献研究を進めるなかで上場企業における業種ごとの利益マネジメントの傾向に有意な差異があることが確認された。そこで,まず製薬業にサンプルを限定した分析を進めることとした。その理由は,業種ごとの利益マネジメントの影響をコントロールするためである。また,製薬業サンプルで得られた結果と全業種サンプルでの結果を比較分析することは,先行研究の結果と比較するうえでも有益であると判断したためである。さらに,来年度に予定している包括的な検証にさいしても,分析の精緻化を図ることができるからである。 ここでは,資本コストを上回りリターンを企業余剰利益スプレッドと定義し,製薬業サンプルの企業余剰利益スプレッドのヒストグラムを観察することで利益マネジメントの検証を行った。分析の結果,ヒストグラムのゼロ付近において,ゼロを上回る区間の頻度が,ゼロを下回る区間の頻度と比べて非常に多いという不規則なゆがみの形状を確認することができた。これは企業余剰利益スプレッドが0以上となる数が有意に多いことを明らかにしている。そのため,製薬会社は企業余剰利益スプレッドがマイナスになることを回避するために利益マネジメントによって資本コストというベンチマークを達成していると解釈される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の達成度についてであるが,申請者はおおむね順調に進展していると評価しており,70%程度は完了したと判断している。その理由であるが,実証分析に必要なデータベースや研究課題に取り組むうえで必要な文献などの研究インフラが整ったことで,平成28年度に予定していた研究課題をスムーズに進めることができたためである。また,当初の予想どおり,資本コストをベンチマークとした利益マネジメントの可能性について確認することができた点も研究の順調な進捗と評価してよい点であえると考える。 しかしながら,平成28年度における研究課題がすべて完了したとは言い切れない。残された課題が30%程度存在する。申請者が課題として認識する点は次の3点である。 ひとつは,本年度の分析が特定の業種サンプルに限定した分析となった点である。当初は金融,保険業を除く全業種に属する企業サンプルを対象とした検証を想定していたが,本研究では先行研究での指摘を参考に製薬業にサンプルを限定した検証を行った。今後は,全業種サンプルによる検証を進め,本年度の検証結果との違いや先行研究の結論との相違について分析する必要がある。 次に,本年度の分析はあくまで利益マネジメントの可能性について検証したにすぎない点である。利益マネジメントは会計的利益マネジメントと実体的利益マネジメントに分類され,経営者が具体的にどのような方法を用いて資本コストというベンチマークを達成しているのか,またそれらが相互にどう影響し合っているのかについてはより詳細な分析を進める必要がある。 最後に,資本コストの推定問題である。本年度はCAPMを用いた資本コストの推定という基本的な方法を用いた。その後,ファクターモデルやインプライド資本コストといった新たな方法が取り上げられている。これら他の方法を用いても本研究の成果が頑健であるかどうかテストする必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について,【現在までの達成度】の理由に記述した残された3点の課題に沿って説明していきたい。 ひとつは,サンプルセレクションの問題である。次年度は金融,保険業を除く全業種に属する企業サンプルを対象とした包括的な分析を進める。また,年度ダミーや業種ダミーを用いることでこれらの影響をコントロールする。次年度の検証結果と本年度のそれとを突合せて分析することは,精緻な結論を得るうえで効果的な方法であると考える。 次に,利益マネジメントの具体的方法と資本コストの推定問題である。利益マネジメントは会計的利益マネジメントと実体的利益マネジメントに分類される。それぞれについて具体的な検証方法が確立しているため,その方法を用いることとする。他方,資本コストについてはLyle and Wang(2015)の推定方法を用いることとする。近年の先行研究では,インプライド資本コストであっても割引率や時間的変動といった要因をコントロールできないとの問題点が指摘されている。そこで,それらの問題点を考慮したモデルを提示したLyle and Wang(2015)の推定モデルを援用した分析を進める。 最後に,平成28年における研究計画では,得られた成果を2016年に開催予定の日本会計研究学会全国大会にて報告するとしていた。しかしながら,応募締切日までに調査結果を明らかにすることができなかった。そのため,平成28年の研究成果は平成29年の研究成果と合わせて,2017年に開催予定の日本経営分析学会秋季大会(2017年12月3日に明治大学にて開催予定)にて学会報告を行う予定である。また,研究成果を国内外に広く発信するという趣旨から,平成29年度中に海外ジャーナルへの投稿を目指している。
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Causes of Carryover |
平成28年における研究計画書では,2016年にニューヨークにて開催されたアメリカ会計学会(2016年8月6日~8月10日)にて報告するとしていた。しかしながら,応募締切日までに調査結果を明らかにすることができなかった。そのため,外国旅費として計上していた研究費と,その他の海外学会参加費として計上していた研究費を支出することができなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,アメリカ会計学会およびAsian Pacific Conference on International Accounting Issuesへの参加ならびに研究報告を検討している。そのため,次年度使用額とされる136,400円については外国旅費の不足分に充当する予定である。 また,次年度は海外ジャーナルへの投稿も準備する予定である。そのため,研究計画書の旅費等の明細のその他の箇所で記入した国内外学会参加費,英文翻訳費用,論文校正費用,投稿料といった支出の不足分に充当したいと考えている。
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