2016 Fiscal Year Research-status Report
会計数値に基づく財務制限条項の活用とその経済的帰結に関する実証研究
Project/Area Number |
16K17213
|
Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
河内山 拓磨 亜細亜大学, 経営学部, 講師 (70733301)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 財務会計 / 負債契約 / 財務制限条項 / 利益の質 / メインバンク |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度となる平成28年度では,大きく以下の3つを実施した。第1に,関連する先行研究の渉猟および整理である。本研究の最終的な目標は負債契約における会計数値の活用ならびにその影響に関する研究著書の公刊にあるが,これに向けた準備として国内外の先行研究を広く網羅的にレビューした。その結果,2017年に公表されたものも含め200本近くの学術論文を収集することができた。また,その内容や主要な分析結果を表計算ソフトで取りまとめ,データベースとして整理・管理することに成功している。 第2に,学術論文の執筆および公表である。平成28年度には,本研究の主題である負債契約および財務制限条項に関連する論文として,3つの論文を執筆・公表することができた。これらの内訳は,査読付き学術論文が1本,査読無し学術論文が1本,商業雑誌におけるビジネスケースが1本である。こうした研究成果の公表は,これまで実証的に検討されることが少なかった日本における財務制限条項の活用とその影響について新たな知見を提示すると同時に,融資機関が適切な与信管理・貸与先に対する規律付けを行っていくうえでの有益な実務的知見をもたらすものと考えられる。 第3に,学会や研究会での研究報告である。平成28年度には国内外の学会にて研究報告を行ったほか,大学や研究機関で定期的に開催される研究会に積極的に参加し,本研究に関する貴重な意見やコメントを収集することができた。とりわけ,当該研究年度においては公的融資機関を対象とする研究報告の場にも恵まれ,研究成果の発信という意味において規制当局ならびに実務家に対して有意義な成果を残すことができたと考えられる。また,こうした研究報告を通じて得られた知見は平成29年度以降の研究活動をより豊かなものにすると期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況は,概ね順調である。当初の研究計画では平成28年度に関連する先行研究の収集と整理,および,財務制限条項が経営者の行動に及ぼす影響に関する研究論文の執筆の2つを主に予定していたが,どちらも滞りなく進展している。前者の先行研究の収集と整理については,先に記したように,約200本の学術論文を収集することに成功し,これをデータベース化している。また,後者の研究論文の執筆については予定通りに進捗している。とりわけ,論文の執筆および投稿という点では,当初に予定していた論文が査読付き論文として公表されるだけでなく,この他に2本の論文を執筆し,うちひとつは査読付き学術誌へすでに投稿しており,いまひとつは英文校閲業者に英語論文の修正を依頼している最中にある。 また,本研究の要となる財務制限条項に係るデータベースの構築については,その見直しと更新作業を行うことができた。これまでに収集してきた情報やデータに誤りが無いかの確認だけではなく,追加的に情報を手作業にて収集することでデータベースの拡充を行った。この一方で,直近年度に関する当該情報の収集およびデータベースの拡充作業については未着手である。また,当初の予定では平成28年度中に融資機関を対象としたサーベイ調査を広く実施する予定にあったが,現時点では質問票の精緻化を狙いとしたインタビュー調査を実施している段階にある。以上より,一部作業において当初の研究計画との若干の相違があるものの,研究活動全体としては優先順位を設けたうえで順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降の研究活動として,以下の3つを実施することを考えている。第1に,当初の予定に従い,財務制限条項が及ぼす会計行動への影響について研究論文を執筆・投稿する。とりわけ,Dichev and Skinner(2002)やNikolaev(2010)などの先行研究を参考に,借り手企業の利益調整行動および利益の質に財務制限条項がどのように関連するかについて検討し,研究論文を2本執筆する予定にある。また,現在,修正作業中にある英語論文については国外の査読付き学術誌へ投稿し,早い段階での受理・掲載を目標に活動していく。 第2に,データベースの更新作業および融資機関を対象としたサーベイ調査の実施である。上述したように,直近年度における財務制限条項に係る情報の手収集およびこれのデータベース化については未着手であり,これを早い段階で実施する予定にある。また,負債契約の実務・実態を解明することを目的に融資機関を対象としたサーベイ調査を広く実施する。 第3に,研究書の公刊に向けた研究成果のとりまとめである。研究書では,負債契約における会計数値の活用および財務制限条項について,日本におけるその実態,変遷,影響を多角的に検討する。この目的に照らしたうえで,これまでの研究成果ならびに今後の研究成果をフレームワークのもと整理し,再構成のうえ記述する必要がある。これは上述した活動をつづけながら,進展させていく。
|
Causes of Carryover |
当初,購入を予定していた企業ガバナンスデータについて,所属大学がデータベースを購入したために購入が不要となったことが大きな要因である。また,当初,予定していたデータベースの更新作業ならびに融資機関を対象としたサーベイ調査が延期となったため,これらに係る支出が存在しなかったためである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降,これまでに着手した研究成果を国内外の学会にて報告し,また,特に海外の査読付き学術誌に投稿していく予定にある。そのため,当該金額については学会参加費・英文校閲料・論文投稿料に充てると同時に,本研究の拡張を目的としてトムソン・ロイター社が提供するDealScanなどの国際的な財務データベースの購入に利用したいと考えている。 また,次年度には,融資機関を対象としたサーベイ調査を実施する予定にあることから,郵送代や人件費などとして活用したいと考える。
|