2016 Fiscal Year Research-status Report
社会科学の基礎概念としての帰属概念の系譜学――初期フリッツ・ハイダーを中心に
Project/Area Number |
16K17232
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
梅村 麦生 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (70758557)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 帰属理論 / 社会系心理学 / 社会学 / 社会科学史 / フリッツ・ハイダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は本研究課題に関わる資料収集を中心に実施した。まずフリッツ・ハイダーのオーストリア時代からアメリカ時代を含めて全活動期間にわたる著作(単行本、論文、翻訳、ノート集など)の詳細なリストを作成した。このリストを元に、国内外の図書館から複写の取り寄せが可能な資料、オンラインで入手可能な資料、および一般に購入可能な資料を取得した。そして未公刊の博士学位論文(『感覚質の主観性について』1920)を閲覧するため、オーストリアのグラーツ大学附属図書館を訪問し複写を取得した。併せて、ハイダーが当該論文で参照している諸文献、およびハイダーの特にオーストリア時代の研究に関わる二次文献のリスト化と収集を行った。 以上で収集した一次文献と二次文献から、ハイダーの博士学位論文『感覚質の主観性について』の位置づけを確認した。後に著名となる知覚メディアに関するオーストリア時代の論文「物とメディア」(1926)はこの博士学位論文の一部を発展させたものであり、そして博士学位論文はグラーツ大学での指導教授であったアレクシウス・マイノングの『われわれの知識の経験的基礎について』(1906)で提起された問いを敷衍し、自然科学の用語を交えて著述していることが確認できた。また知的背景として、初期現象学や生態学的心理学との接点があることがわかった。《帰属》概念に関しては、後年には初期に取り組んだ研究を知覚に関わる《因果帰属》と捉えているが、博士学位論文の段階では十分に用語として確定していなかったことがわかった。ハイダーによる《帰属》概念の知覚心理学への導入、社会心理学への応用の経緯に関しては、より詳しく分析する必要がある。 以上の研究経過に関して、ニクラス・ルーマン研究会第14回例会と第89回日本社会学会大会で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず資料収集に関しては、ハイダーのほぼ全著作を網羅するリストを作成することができ、グラーツ大学附属図書館所蔵の博士学位論文『感覚質の主観性について』を初めとして、十分に閲覧・取得することができた。以上のハイダーの諸著作およびハイダーが参照していた文献と、ハイダーに関する二次文献を併せて検討し、おおまかな知的背景を明らかにすることができた。 ただし、「物とメディア」論文および「感覚質の主観性について」論文で用いられている《帰属》に関わる複数の用語を確認することができたものの、《帰属》概念の導入と定着に関してはまだ十分に明らかにできていない箇所があり、今後の分析を必要としている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり、ハイダーのアメリカ移住後の研究活動に関する資料を追加で収集するために、カンザス大学ケネス・スペンサー研究図書館の訪問とフリッツ・ハイダー・コレクションの閲覧を予定している。以上の追加資料の収集と検討を踏まえて、20世紀の《帰属》概念をめぐる社会科学史の中でハイダーがなした貢献とその位置づけを明らかにする。随時、研究成果の報告と公刊を行う。
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Research Products
(2 results)