2017 Fiscal Year Research-status Report
国家主導の社会政策への批判:デュルケム社会学の同時代的/現代的意義
Project/Area Number |
16K17237
|
Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
流王 貴義 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (40755948)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | デュルケム / 社会学史 / アノミー / 作田啓一 / 政治社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度に実施した研究の1つ目の成果は,マートンのアノミー論におけるデュルケム受容の検討である.マートンのデュルケム受容については,ベナールの研究が存在するが,前年度の研究成果である学位論文で検討したパーソンズのデュルケム受容の偏りを踏まえ,1938年版のアノミー論については,『社会分業論』に関するパーソンズのデュルケム理解の反映として解釈すべきであり,『自殺論』とは切り離して解釈するのが適切であるとの知見に至った.確かに1949年の加筆修正版では,パーソンズのデュルケム理解からの影響は不明瞭となっているが,アノミー概念の位置づけ自体は,加筆後も基本的には変化していないと判断できる. 2つ目の成果は,作田啓一におけるデュルケム受容の検討である.この主題については,前年度に開催した日本社会学会第89回大会でのテーマセッションでの着想を展開したものである.まず2017年7月に開催の公開シンポジウムにおいて,1960年代の作田に関する研究を取り上げ,作田のテキストの理解には,作田自身が直面していた同時代の現実との関連のみならず,作田が受容した欧米の学説との関係を考慮するのが有効であるとの視点を提起した.その上で同年11月の日本社会学会大会では,60年代から70年代前半の作田のテキストにつき,デュルケムの政治社会学の批判的摂取という観点から,リースマンや同時代の日本の政治学者による日本社会論への理論的応答として理解を試みる報告を行った. 3つ目の成果は,政治社会学という学問領域の困難と可能性を巡る検討である.具体的には,『政治的リベラリズム』を中心とした後期ロールズの政治哲学を,社会学の視点から解釈し直した金野美奈子の『ロールズと自由な社会のジェンダー』の議論の構図を検討し,社会学が政治や公共といった主題を論じる際の課題を検討し,デュルケムの問題提起の現代的意義を明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2017年度に実施した研究は,デュルケム社会学の意義を,国や学問の境界を越えた知識の流通と受容といった文脈を踏まえ,「社会的なもの」の展開に関する同時代的な認識のヴァリエイションに照らし合わせて検討を試みる,という本研究の方法論的な特徴を生かすべく,専らデュルケム社会学の現代的意義を検討するものとなった.ただしこの場合の現代とは,研究課題名として記されているように,同時代との対として把握される対象であり,具体的な検討対象としたテキストには1930年代のものも含まれる. 当該年度の研究の進捗状況を,前年度に提示した研究の推進方策を踏まえて記すならば,行政権力や経済的権力の肥大化と社会的権力との結託に対する警戒は,当該年度で検討したテキストに限ったとしても,1930年代や50年代のアメリカ,1950年代から60年代の日本において示されており,その際の1つの重要な知的媒体となっているのが,デュルケムのテキストである点が明らかになった.1950年代から60年代にかけての大衆社会論,加えてその後の政治哲学の復権に照らし合わせた上で,デュルケムの政治社会学の現代的意義を提示するのであれば,それは,個々人の自由を保障する仕組みを,政治や公共といった社会外の領域からの介入に期待するのではなく,複数の社会的権力が交錯するメカニズムの中に求めた点に存するとの見通しが得られた.このデュルケムの政治社会学の現代的意義を日本において展開したのが,作田啓一となるのであろう. この作田啓一という対象が,デュルケムの政治社会学の現代的意義を最も先鋭に追求した論者であるだけでなく,1960年代の日本における欧米の社会学受容,並びに社会学と他の学問との関係を検討する格好の糸口となりうる点の発見が,当該年度の研究で得られた計画以上の進展である.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては,まず2016年度に行った研究の成果である学位論文の公刊に向け,その後に実施した研究の成果を盛り込むべく,必要な限りでの加筆修正等の作業を行う. 加えて推進すべきなのは,デュルケムの政治社会学の現代的意義を日本において展開した具体的事例としての作田啓一に関する研究である.作田のテキストに関する分析については,ある程度の作業を終えているが,同時代の日本の論者との比較対照については,必要な資料を収集し,その分析に着手する段階に入っている. 最後にデュルケム社会学の同時代的意義を,ドイツの社会政策学をめぐる知の受容との関係の中で検討する作業についてだが,この課題については,検討すべき素材が当初の想定よりも大幅に拡大したため,文献の収集を継続している段階となっている.マックス・ヴェーバーの法社会学,政治社会学との比較検討も視野に入れつつ,19世紀末のヨーロッパで社会学が置かれていた知的状況を考察しうる枠組みを模索したい.
|
Causes of Carryover |
前年度に前倒し支払い請求を行ったため,その未使用額が今年度に繰り越されており,結果として次年度使用額が発生することになった.次年度には図書の購入等を含め,計画的に使用する予定である.
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
-
[Book] 社会学の力2017
Author(s)
友枝 敏雄、浜 日出夫、山田 真茂留
Total Pages
312
Publisher
有斐閣
ISBN
9784641174306