2016 Fiscal Year Research-status Report
3時点縦断データを利用した高齢者のうつからの回復とその因果プロセス
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16K17256
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐々木 由理 千葉大学, 予防医学センター, 特任助教 (80734219)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高齢者 / うつ / リスク要因 / 縦断データ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は下記①,②,③を目的に実施している. ①社会・環境の変化と高齢者のうつからのリカバリーの因果を解明すること.②介入可能性の高いリカバリー要因を明らかにすること.③うつからのリカバリー要因とうつのリスク要因の違いを明らかにすること. 本研究は,日本老年学的評価研究 (Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)プロジェクトの2010-11年調査データを起点としている.回収サンプルのうち,追跡期間前に要介護認定を受けていた者を除き,2013年度に約138,300 名から回答を得て作成した縦断パネルデータ(佐々木,2015)を用いる.2016年度は,全国39市町の約30万人へのアンケート調査(回収率約70%)を実施した.前述の縦断データに,パネル化可能な市町のデータを結合し,3時点縦断パネルデータの作成を開始した.先行して,主な調査項目となる高齢者用うつ尺度(Geriatric Depression Scale: GDS)やその他項目のシンタックスを作成し,3時点パネル完成後に速やかに分析に取り掛かる準備を行った. また,大規模調査の実施と並行し,既存の2時点縦断データを用いた震災地域における高齢者のうつ要因に関するサブ解析を行った.3点の研究成果を,学会で発表し(日本公衆衛生学会,日本疫学会,日本国際保健医療学会,いずれも口演発表),論文は,1本が査読審査中で,1本を執筆中である.2017年度も引き続き3時点パネルデータを作成しながら,研究成果を積極的に発信していく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サブ解析で,被災地域における高齢者のうつ発症と近所づきあいの豊かさの程度の関連を検証した.共変量(性別,年齢,主観的健康感,疾患の有無,教育,所得,雇用,家族構成,歩行・喫煙・飲酒習慣,震災被害,転居,震災による親族の死亡経験)を調整したポアソン回帰分析の結果,近所づきあいが深い人より,ほどほどの人が有意にうつ発症リスクが低かった(Adjusted Rate Ratio, ARR: 0.79; 95% Confidence Interval: 0.64-0.97).地域の社会的凝集性と個人の精神的健康の関係の交互作用を示した研究もあり,高齢者の精神的健康は,慎重に対応すべきであることが明らかとなり,今後の解析の重要な示唆を得た. また,震災地域における住居の転居がうつ発症の予測となりうるのかを検証した.住居の移動そのものがうつ発症のリスク要因(ARR:1.51; 95% CI: 1.14-2.00)となっているのみならず,住居タイプにおいて,特にプレハブ住居の転居者で有意にうつ発症リスクが高いことを明らかとし(ARR:2.07; 95% CI: 1.45-2.94),今後,住居環境の変化に考慮した解析をすべきことを示唆した. 更に,震災による親しい人との死別と直近1年の死別のうち,どのような死別経験がうつ発生リスクとなっているのかを検証した.前期男女及び後期女性では、いずれの死別経験もうつ傾向発生リスクとならなかったが,後期男性では,直近1年に死別経験がなくても,震災による死別経験があると,うつ発生リスクが高い傾向にあり(31.3% vs 17.8%, Rate Ratio:1.19; 95% CI: 1.05-1.36) ,性別,年齢によって,死別の影響が違う可能性,さらに,突然に遭遇した死別と,ある程度の予測ができていた死別で,うつ発生の影響が違う可能性が考えられた.
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Strategy for Future Research Activity |
うつ予防やリカバリーに向けた地域づくりを戦略的に進めるための科学的根拠を提示する上で,6万人規模の3時点多地域パネルデータを活用し,分析を行っていく. 具体的には,3時点縦断パネルデータのクリーニングを行い,国内外の研究レビュー,および,昨年度の研究結果を反映し,本研究の目的を達成するためのデータ解析に取りかかる.目的①の社会・環境の変化という点について,住居環境や近所づきあいの変化,さらに死別経験にも着目し,性別や年齢を調整した分析を実施していく.目的②は,目的①や目的③で高齢者のうつのリカバリー要因やリスク要因と考えられたものから,介入可能性の高いものを,研究者のみならず,自治体等からの声や地域の特性を反映させながら,検討していく.
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Causes of Carryover |
当初想定していた調査費用を抑えることができたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データクリーニングのダブルチャックなど,集計データの精度を高めること,分析や関連文献に関わる費用に充てる.
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[Journal Article] Does the type of residential housing matter for depressive symptoms in the aftermath of a disaster? Insights from the Great East Japan Earthquake and Tsunami2017
Author(s)
Yuri Sasaki, Jun Aida, Taishi Tsuji,Yasuhiro Miyaguni, Yukako Tani, Shihoko Koyama, Yusuke Matsuyama, Yukihiro Sato, Toru Tsuboya, Yuiko Nagamine, Yoshihito Kameda, Tami Saito, Kazuhiro Kakimoto, Katsunori Kondo, Ichiro Kawachi
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Journal Title
American Journal of Epidemiology
Volume: -
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Depressive symptoms and the extent of social ties in older survivors in a disaster area: a longitudinal data analysis2017
Author(s)
Yuri Sasaki, Jun Aida, Taishi Tsuji,Yasuhiro Miyaguni, Yukako Tani, Shihoko Koyama, Yusuke Matsuyama, Yukihiro Sato, Toru Tsuboya, Yuiko Nagamine, Yoshihito Kameda, Tami Saito, Kazuhiro Kakimoto, Katsunori Kondo, Ichiro Kawachi
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Journal Title
Journal of Epidemiology & Community Health
Volume: -
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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