2016 Fiscal Year Research-status Report
地域雇用における政策形成の調査研究:デンマークの地域労働需給調整を事例として
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16K17258
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
神崎 淳子 金沢大学, 人間社会環境研究科, 客員研究員 (00569353)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 支援付き就労 / デンマークの就労システム / 地域雇用政策 / 中間的就労 / 地域雇用システム / 生活保障 / 生活困窮者自立支援 / 職業訓練 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、①生活維持が可能な所得形成と②地域社会の生活基盤の再構築を地域レベルの雇用政策により実現するための手がかりとして、労働市場政策を分権化した先進地域の課題と対策を整理することにある。具体的には、デンマークと日本を対象に、地域レベルの雇用政策の意義について、地域システムという視点から分析を行っている。 平成28年度は、国内先進地域の調査、海外調査のための現地の研究成果、関係諸機関や制度の理解を行う計画としていた。そのため、デンマークの労働に関わる行政システムの理解や、地方と国の役割分担について文献を中心に整理を行った。その上で、デンマークの地域雇用システムの主体として、基礎自治体の公的扶助、就労サービス担当部局、職業訓練校、市が委託する就労支援サービスの実施主体、広域行政を行う、国の社会サービス省下部機関、地域雇用協議会が制度運営に関わっていることがわかった。これらの諸主体の役割と関係者間の利害と協調方法について、デンマークオーデンセ市への調査を実施した。オーデンセ市の就労支援、公的扶助の担当部局へ、就労阻害要因を持つ対象者向けの職業訓練機関を訪問した。調査の成果として、教育システムと就労支援との連携、地域企業と担当部局の就労に関わる利害調整、支援付き就労をうける対象者の生活全般を支える生活保障システム(公的扶助)のあり方が支援付きサービスの利用者の就労動機に影響を与えること、これらは基礎自治体が担うことに重要な意義があることがわかった。 また、支援付き就労は、国内では生活困窮者自立支制度における中間的就労に類似する点を持つ。中間的就労の先進的事例として、大阪府豊中市や北海道函館市への調査を行った。28年度の研究業績として、調査報告に併せ、各国の支援付き就労に関する文献調査を研究会にて報告、論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 初年度からデンマークの地域就労に関する調査を実施した。当初研究計画では、候補地や調査対象の選定のため、文献研究を1年目に行う計画としていた。しかし、調査対象地域の研究や、関連機関との調整が順調に進んだため、本研究の事前調査としてデンマークの現地調査を実施した。その成果として、現地調査により関係主体の役割に関する制度理解が進んだことに加え、相互の協力関係、利害関係といったインフォーマルなシステム内の関係性について、情報を得る事ができた。また、国内の地域レベルの就労支援の先進事例として、豊中市の地域的就労支援システムに関する調査を実施した。就労支援の制度設計に携わった実施担当者から制度の特徴について説明をうけるとともに、相談員、マッチング担当の求人担当等、実務者へのヒアリングもおなった。これらの成果から、地域雇用システムを理解するうえで、就労のための地域的教育支援、企業とのマッチング、就労後の継続的なキャリア形成に関するサポートの役割を含めて検討することが必要とわかった。これらの研究成果は、支援付き就労に関わる研究会での2度の研究報告と、調査結果の報告2回(共同報告)、論文等2本と調査報告2本として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、デンマークでは就労阻害要因を持つ人を含む労働市場への雇用統合を推進する政策方針がとられている。積極的な就労支援は社会サービスへの水際作戦や就労強制になる危惧もあるが、社会サービスによる手厚い生活保障を基盤に、ケースワーカーや専門家らと支援者対象者の「能力の範囲内」で就業可能な雇用を作る取り組みが成立している。一方で、本研究では、デンマークにおける社会サービス利用者と提供者の対立点や政策の実施上の課題を丁寧に調査し、就業機会創出にかかわる合意可能な関係諸主体のメリット・デメリットを明らかにする。特に、29年度は支援付きの就労についての概念理解や制度の形成過程について、他国の制度との比較により、日本の生活困窮者支援制度の特徴を整理した。そこで明らかになった、支援付き就労における自治体の役割を、国内の事例分析を行い、研究報告を行う。 対象地区(オーデンセ市)の就労関連部署とのネットワークも得ることができたため、29年度も継続的な調査を行い、システムのメリット、デメリットを分析する。また、28年度調査で明らかになった、就労支援としての教育政策について検討、現地ヒアリングによる調査を実施する。
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Causes of Carryover |
国内先進事例の調査を予定していたが、訪問先との日程が合わず次年度に見送りになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平姓29年8月に青森県弘前市「ひろさきワーク・チャレンジプログラム」泉佐野アグリカレッジ共同企業体への訪問を予定しています。
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Research Products
(7 results)