2017 Fiscal Year Research-status Report
ソーシャル・キャピタルと公共交通の住民参加に関する理論・実証分析
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16K17259
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
小熊 仁 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (00634312)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ソーシャル・キャピタル / 住民参加型交通 / 階層線形モデル / マルチレベル分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に実施されたアンケート調査(青森県鰺ヶ沢町弘南バス深谷線)の実証分析に重点をおき、公共交通の住民参加に集落レベルおよび個人レベルのソーシャル・キャピタルが与える影響を検討した(以下集落SC、個人SCと呼ぶ)。具体的には、先行研究の調査から公共交通の住民参加を「応援」「運営」の2つととらえ、階層線形モデルを用いて、集落SCおよび個人レベルSC、地域への愛着、各種属性(性別、年齢、所得、就労状況、居住年数等)との関係を分析した。分析対象は、深谷線沿線の「本町」、「浜町」、「富根町」「赤石」「館前」「南金沢」「姥袋」「深谷」の8集落に居住する20歳以上の住民で、本分析を実施する上で有効な回答があった347件のサンプルである。 分析の結果、深谷線沿線では個人SCと集落SCが公共交通への住民参加を活発にさせる要因であることが判明した。その一方で、地域への愛着は個人レベルでは住民参加を促進する要素となり得るが、集団レベルではこれを高める効果を持っていないことがわかった。これまでの研究によれば、地域への愛着はSCを醸成する要因の1つとされ、両者には互いに強い正の相関関係が存在することが知られている。しかし、分析対象を集落レベル‐個人レベルとして階層的にとらえて分析を試みた場合、必ずしもこれらの見解が妥当であるとは言いきれないことが実証された。このことは、公共交通への愛着を高めることが公共交通に対する住民参加を促し、ひいては地域全体の活性化につながるという従来の議論に新たな視角を加えるものであり、苦境に立つ地域公共交通の維持のあり方について見直す機会を提供できたという点で重要な研究成果を導出できたと言える。 以上の研究成果は既にサーベイ論文として整理され、公益事業学会2018年度全国大会、ならびにISTR2018の2つの国内・国際大会で報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、アンケートの解析や実証分析に重点をおいた活動を行った。また、サーベイ論文を取りまとめ、学会報告および論文投稿の素地を作ることができた。今後は、これらの研究成果を国内外の学会で報告し、早急にその内容を学術論文としてまとめることを目標に活動をすすめていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
住民参加型交通は、住民参加の程度や範囲によって計画策定時における意見徴収、ワークショップの参加に止まる「参加型」と計画・運営にまで直接関与する「自律型」の2つのタイプが存在する。本年度までは主に「参加型」に関わる研究が中心で、「自律型」の住民参加型交通とソーシャル・キャピタルの関係に関わる実証分析は行われていない。 今年度はこの「自律型」住民参加型交通とソーシャル・キャピタルの関係を明らかにするために、京都府京丹後市「ささえ合い交通」を対象として分析を行う。具体的には、「ささえ合い交通」の運行対象地域である京丹後市丹後町全域1134件のアンケートを通し、活動に対する参加意欲および継続意欲とソーシャル・キャピタルの関係を定量的・定性的に分析し、「自律型」の住民参加型交通を今後継続するための政策的含意を提示する。市や関係先との調整、およびサンプルの抽出は既に終了しており、今年度8~10月頃にはアンケートが実施できる状況である。
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Causes of Carryover |
今年度繰越額が生じた理由は、次年度、京丹後市丹後町で実施するアンケート調査に要するサンプルの抽出(住民基本台帳から1134件抽出)が日程の都合上間に合わなかったためである。この不足分については、当該サンプルの抽出のために利用する予定である。なお、この作業は既に終了済みであり、来年度予定通り予算が執行される見込みである。
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