2016 Fiscal Year Research-status Report
フランス地域青年支援局の組織改革におけるアクションプランの理論と実践
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16K17269
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
松原 仁美 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 特別研究員 (70736347)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フランス / ミッション・ローカル / 労働 / 雇用 / 貧困 / 失業 / 伴走支援 / 若者 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランスの地域青年支援局(Mission Local:ミッション・ローカル)は、1980年代初頭から、生活上・就労上の困難を抱える若年貧困層に包括的な伴走型支援を実施してきた。現在、ミッション・ローカルは全国に446ヵ所設置され、地域レベルの支援に加え、全国レベルの評議会や連合会等によって運営されている。近年、両者を有機的に連動させるため、中間的組織としてシュワルツ研究所が連合会主導で設立されている。 本研究は、フランスの生活・就労困難者に対する伴走型の支援において、ミッション・ローカルの組織改革がおよぼす影響について明らかにしていく。具体的には、組織改革に向けて設立されたシュワルツ研究所の取り組みに着目し、アクションプランの理論と実践を検討することで、雇用仲介機能にとどまらず、若者の社会的地位向上に踏み込んだ伴走型支援の意義を把握する。アクションプランとは、雇用復帰に向けた準備段階として伴走支援と職業教育、就労支援を連動させ個々の問題に対応しつつ、若年貧困者の社会参加、市民的権利、自立性の回復を目指すことを目的にしている。本年度の研究は、B. シュワルツのミッション・ローカルの創設理念からその後継者に至る理論的系譜をたどるとともに、研究所の設立を主導したミッション・ローカル全国連合会において聞き取り調査を実施した。 本研究の意義は、若年貧困層に特化した伴走型支援の役割と課題を把握するにとどまらず、支援現場における支援者やネットワークに着目することで、支援を受ける側だけでなく、支援する側の技術的、精神的なサポート体制にも踏み込んで伴走型支援を分析することにある。研究によって得られた知見は論文として投稿中であり、また、著書として取りまとめ、来年度の刊行を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、シュワルツ研究所の活動内容を調査するため、同研究所の設立を主導したミッション・ローカル全国連合会を訪問し、全国連合会専務理事のA氏、ミッション・ローカルの所長や全国連合会の副議長を務め、大学客員教授の経歴を有しているB氏に聞き取り調査を行った。 聞き取り調査は、伴走支援の現状からはじめ、シュワルツ研究所の役割および設立目的、ミッション・ローカル全体の展望までを対象とした。シュワルツ研究所の役割は、ミッション・ローカル創設者のB. シュワルツ氏の功績を顕彰する事業の一環であったが、現在では、伴走支援を行うミッション・ローカルの職員の情報交換の場となっている。そして、各ミッション・ローカルを取りまとめ、セミナー等を実施し、自らの「ミッション」を確認するとともにカウンセラーの精神的支柱の場にもなっている。この聞き取り調査によって、ミッション・ローカルにおける2つの改革が争点となっていることが明らかになった。第1に、ミッション・ローカルを若者向け職業紹介機関にする改革方針であり、第2に、中央集権的な組織構成に統合する改革方針である。この2つの改革方針については来年度以降も引き続き検討する必要があり、今後も組織改革に着目して本研究課題を進めていく必要性を認識した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度におこなった聞き取り調査によって、ミッション・ローカルの改革構想が現在、争点となっていることが明らかになった。この改革方針は就労優先アプローチと位置づけられ、また、これまでの職業的・社会的参入理念を修正する可能性を有している。2つの改革方針はシュワルツ氏によって構想され、設立されたミッション・ローカルの基本的原理から逸脱するものである。というのは、学業に失敗した若者の背景にある問題に取り組み、雇用を優先させるのではなく、包括的に支援することが現場でなされているためである。調査によって、現場では必ずしも現在の就労優先的な改革路線を支持しているわけではないこと、そして、この点についてより明確に分析するためには、さらにミッション・ローカルにおいて聞き取り調査を行う必要があることが明らかになった。 以上の点から、本研究は今後、第1に、現場レベル、地域レベル、国家レベルの支援実態の相関関係を把握するため、各ミッション・ローカルにおいて聞き取り調査を実施する。第2に、ミッション・ローカルにおける現場の支援実態について、就労優先アプローチと社会的な支援アプローチの関係について掘り下げて調査していく。第3に、支援の地域格差、支援実態の違いを比較検討する基礎的な情報を収集する。ここから、都市と郊外の地域差が組織改革にいかなる影響を及ぼし得るのか検討し、若者の職業的・社会的参入経路における差異の要因を一端ではあるものの示すことができるのではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度、海外調査を行うにあたり、調査協力者の尽力により、本研究課題であるシュワルツ研究所の設立を主導したミッション・ローカル全国連合会本部において聞き取り調査を行うことができた。そのため、通訳を交え効率的に訪問先をまわることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度、ミッション・ローカルを訪問する機会を今回の調査協力者により得られ、協力も得られることになっている。そこで、次年度使用額が生じた分は、各ミッション・ローカルにおける調査にあてることで、来年度に予定していた本研究計画をさらに充実させることが可能になると考えている。
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