2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17272
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
松本 望 北海道医療大学, 看護福祉学部, 助教 (10758668)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 施設内虐待 / 予防 / 文献レビュー / 新聞記事検索 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は複数の種別の高齢者介護施設における虐待(以下、施設内虐待)に対する、効果的な虐待予防策を明らかにすることである。平成28年度は主に、①施設内虐待に関する先行研究のレビューと、②新聞記事をもとにした虐待事例の収集と分析を行った。 ①先行研究のレビュー:施設内虐待に関する先行研究のレビューに関しては、まず全国規模で実施された調査でもある、厚生労働省による調査結果や認知症介護研究・研修仙台センターの報告書等をもとに、虐待の実態や要因について整理した。また国内外の文献レビューを行う中で、改めて施設内虐待に関する先行研究が少ないことが明らかとなったことから、家庭内の高齢者虐待に関する研究や、障がい者や児童に対する施設内虐待に関する研究も含め、レビューを行った。 ②新聞記事をもとにした虐待事例の収集・分析:新聞記事をもとにした虐待事例の収集と分析に関しては、新聞報道された施設内虐待に関する事例を収集し、虐待の発生・予防要因を中心に抽出・整理した。本研究では特に、例年虐待の件数が多い傾向がみられる「特別養護老人ホーム」「認知症グループホーム」「有料老人ホーム」の3つの施設種別に着目しており、新聞記事に関しても、これら3つの施設種別で発生した複数の虐待事例に関する記事を収集することができた。 今年度全体の研究成果としては、まず虐待の要因に関しては加害者自身の要因のみならず、被虐待者の要因、それらを取り巻く環境的な要因が複雑に絡み合っていることが明らかとなった。また、複数の種類の虐待被害を受けていたケースや、複数の虐待事例が発生した施設、さらに虐待の発生に影響を与えた要因も複数存在するなど、施設内虐待の複雑な構造も明らかとなった。これらの研究成果をふまえ、今後は各施設の環境的な特性も含めた複数の要因に働きかける、虐待予防に向けた取り組みについて幅広く検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究①「先行研究のレビュー」に関しては、高齢者に対する施設内虐待に関する国内外の研究のみならず、対象を拡大し家庭内における高齢者虐待や、児童や障がい者に対する施設内虐待に関する研究も含めたレビューを既に終えている。これにより高齢者の施設内虐待の特性や、特有の要因についても把握することができた。また、一部の研究成果については既に整理し、学会発表に向けて準備を行っていることから(査読中)、おおむね順調に進展していると評価できる。 研究②「新聞記事をもとにした虐待事例の収集・分析」に関しては、既に平成28年度までの新聞記事の収集は終えている。また分析が終了した一部の研究成果については既に整理し、複数の学会にて発表していることから、おおむね順調に進展していると評価できる。特に、本研究で対象としている「特別養護老人ホーム」「認知症グループホーム」「有料老人ホーム」の三つの施設種別における虐待の特徴として、被虐待者に認知症の症状がみられるケースが多いことが改めて確認された。それだけではなく、先行研究では暴力や徘徊などの認知症の行動・心理症状(BPSD)が虐待の要因として指摘されているが、事例を分析する中で、中核症状である記憶力の低下や意思の疎通の困難さなどの症状も多くみられた。このことから、認知症の発症そのものが虐待のリスクを高めている可能性が考えられるなど、新たな知見を得ることができた。 これは施設内虐待の予防に向けた、効果的な虐待予防策を明らかにしていく上でも重要な知見であり、今後の研究に活かしていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果をふまえ、平成29年度はインタビュー調査を実施する。調査は本研究が対象としている「特別養護老人ホーム」「認知症グループホーム」「有料老人ホーム」に勤務する介護職員(各施設種別ごとに5~10名)を対象に行う。調査の内容や方法に関しては、平成28年度までの研究で収集した虐待事例や文献を参考に、架空の虐待事例を作成し、事例のような虐待を防ぐために必要だと思う取り組み(虐待予防策)について質問する。分析方法に関しては、抽出された虐待予防策をKJ法を用いて分類し、抽出された虐待予防策を施設種別・虐待の種類ごとに比較する。これによって、各施設種別ごとに必要となる虐待予防策の特性や違いを明らかにし、研究結果については学会発表や論文投稿を随時行う。 研究の手順としては、まず調査の実施に向けて架空の虐待事例を複数作成するとともに、所属する研究機関の倫理委員会の承認を得るために申請書の作成等の準備を行う。その上で各種別の施設・機関に調査を依頼し、同意が得られた施設・職員を対象に調査を実施する。調査結果については分析を行った上で、平成29年度までの研究成果をふまえ、平成30年度に実施する質問紙調査に向けて、質問紙を作成するなどの準備を進める。
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Causes of Carryover |
新聞記事をもとにした虐待事例の収集について、当初は研究補助員に作業を委託する予定だったが、研究者自身が大半の作業を行ったことで謝金としての支出が予定よりも少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は平成28年度までの研究によって得られたデータについて、複数の分析手法を用いて分析を行う予定であることから、各分析方法に合わせたデータの整理を再度行う作業が必要となる。したがって今後行う分析と、それに伴うデータの整理に関わる謝金等として支出する予定である。 また、平成28年度に行った施設内虐待に関する新聞記事の収集作業は、平成28年度までの新聞記事を対象としたが、より多くの虐待事例を収集するために平成29年度以降も引き続き事例の収集を行い、分析も継続していく予定である。したがって、平成29年度以降も新聞記事の収集等に伴う支出も発生する見込みである。
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