2018 Fiscal Year Annual Research Report
Comparison of Decision Making by Agent and Judge in Moral Dilemmas
Project/Area Number |
16K17292
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 剛明 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (80772102)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 道徳ジレンマ / 自己制御 / 判断・行動の乖離 / マウストラッキング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、道徳的ジレンマ状況で人々の「判断」と「遂行」とが乖離する可能性と、その背後にある心的過程を解明することを目的とした。 2018年度には、多数の人々の生命や社会正義を守るために少数を傷つける行為(道具的危害)が求められる場面を題材とした実験(参加者90名)を実施した。参加者の半数は、画面上に呈示されるジレンマについて、自らを行為者とした場合の遂行意図を回答した。残りの半数は、当該行為の許容度を評定した。分析の結果、全体的傾向として、行為の許容度の判断に比べ、遂行意図が低く示されることが認められた。意思決定過程をさらに詳細に検討するため、参加者のマウスカーソルの軌跡を解析したところ、行為を肯定(許容ないし遂行)した試行で「行為者」と「判断者」の間に特徴的な違いがみられた。具体的に、行為者は(1)各試行の初期段階には判断者より強く心理的葛藤を経験するが、(2)試行中盤で遂行の決断をした後は判断者よりも選択肢に向かい直進的に反応し、さらには(3)個人差として自己制御特性が高いほど葛藤が少ないといった知見が得られた。人は、道具的危害を遂行する必要性に迫られたとき、生じる葛藤をコントロール必要があり、それには自己制御過程が大きく関与するといえる。以上の結果は、2018年度中に海外学会にて報告した。 2016年度からの期間全体を通して、道徳ジレンマでの人々の意思決定には、判断時に喚起される感情反応(対象への共感など)を合目的的に制御する過程が関わっており、それは特に「行為者」の立場で顕著であることが示された。この知見は、ジレンマ状況での意思決定に関して展開されている先行の議論に対し、自己制御の観点を組み込んだ視座を提供するものである。また、現実場面で人が人を傷つける状況を解釈する上でも有用な枠組みを提供する。現在、得られたデータをさらに解析した上で論文化する準備を進めている。
|