2016 Fiscal Year Research-status Report
原発事故避難者が地元地域への帰還に際して経験する不安と受容に関する縦断的研究
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16K17338
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
日高 友郎 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (70644110)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エスノグラフィック・インタビュー / 地域愛着 / 将来展望 / 曖昧さ・不定さ / 文化心理学 / フィールドワーク / エスノグラフィ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に基づき、福島県内の避難指定区域(避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域)出身の複数の避難者へのインタビューを実施した。合計して約1380分にわたる、縦断的に実施した当インタビューにより、以下の知見が得られた。 1. 地元地域の放射線除染作業が進むほどに線量は下がる一方で、放射性廃棄物(除染の結果として生じる汚染土等を包んだ収容バッグ)の野積みが増えていくために、むしろ帰還への抵抗感や風評被害の懸念などが想起されるという矛盾した状態に避難者が置かれている点。 2. 帰還する/帰還しないという判断が、生活の安全性に対する(科学的)リテラシーの程度や、政府・行政の公的情報に対する信頼の程度を示す指標として、避難者同士の間で用いられてしまうがゆえに、避難者間での「分断」とも表現できるような事態が進展している点。 3. 避難指定区域(避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域)ごとに、帰還に対する不安と受容の実際は異なっており、指定区域ごとの現状に合わせた支援が必要であること。 上記1の点については心理学研究における「将来展望」の文脈での解釈と検討が可能なテーマである。そのため関連する諸概念についての文献検討(将来展望、グループダイナミクス、文化心理学等)も合わせて集中的に実施した。上記2の点については帰還に対する判断に関わる不安・受容の文脈で検討が可能であることから、帰還の判断についての尺度構成に必要な知見であると判断された。そのため心理尺度や、地域(場所)愛着、ノスタルジア等の関連する心理学的諸概念についての文献検討も行った。上記3の点についてはより実践的な支援上の課題を提示し得たものであり、申請者所属機関の対人支援専門職とも情報交換・議論を行い、有用な知見となるように検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
避難者を対象としたインタビューについては、1年間にわたり、のべ21名を対象として実施できたことに加え、うち3名については追跡的にインタビューを実施できる関係を構築することに成功している。そのため、避難区域指定が存在する段階・解除される(された)前後、解除された後、という3段階での、帰還に対する不安と受容の変容の有り様を記述的・縦断的に明らかにすることが出来る見込みが立った。また、研究対象者の地元地域を避難区域ごとで分類し、その分類に基づいた課題の検討や展望の相違や変容を分析するなど、より多角的な視点から避難者の実際に迫るための基盤となる研究を実施できた。 一方で、インタビュー対象者は当初30名程度を予定したが、その目標には及ばなかった。理由として、研究対象者となった避難者の中には転居や転職などにより、縦断的な情報提供をいただけなくなるケースが多数存在したことが挙げられる。また、2017年度以降の研究課題である尺度構成の点については、大まかな見込みをつかむ程度に留まっている。理由として、帰還に対する不安・受容の内実は、当初想定以上に複雑かつ抽象的なものであったために、こうした情報を適切に処理するための分析法ならびに解釈の方法を検討するための時間を要したことである。この点は想定外であると同時に、避難者の心理社会的状態に対する、よりボトムアップ的なアプローチの必要性と重要性を示すものでもあると考えており、次年度のさらなる追究を図りたいと考えている。 以上の点から、2016年度の進捗状況は「おおむね順調」と判断することが適切であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は「尺度構成およびパイロットスタディを中心とした調査」を主たる課題としている。以下3点を並行し進める。 第一に、「帰還」不安の心理尺度構成のための文献検討と方法論的検討をさらに進めることである。前述の通り、本研究は、将来展望、グループダイナミクス、文化心理学、地域(場所)愛着、ノスタルジア等、極めて広範な心理学的諸概念と関わっている。こうした諸概念を整理した上で、支援にとって有用な尺度を構成するためには十全な文献検討を行うとともに、心理尺度についての専門的知見を有する研究者からの助言も必須であると考えられる。そのため、次年度は文献検討を精力的に実施するとともに、他研究者との研究交流・相談の機会を増加させるために学会・研究会等での成果公表を重点的に実施する予定である。 第二に、尺度構成と試用である。次年度後半の開始を目標として尺度構成を行うとともに、避難者/帰還者を対象としたパイロットスタディを実施する予定である。なお社会的・政策的状況の変化により、本研究の研究協力者の地元地域の中には、2016年度中に避難区域指定が解除されたものが多数存在している。しかし、多くは(2017年4月時点において)帰還しておらず、いまだ「避難者」としての側面を保ちながら避難先での生活を継続している。そのため、「避難者の帰還」のテーマでの研究を進展することに支障はない状況である。 第三に縦断的インタビュー調査を継続して実施することである。時間的推移にしたがって住民を取り巻く(政策的)情勢が変容する可能性が高い。平成29年度(および平成30年度)においてもインタビューを継続し、帰還の希望の有無(程度)や、帰還を決定した場合の決定因などについて質的研究法により調査を継続する。 これらをもとに、完成年度となる翌年度(2018年度)のための下地を確立することが本年度の方針である。
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Causes of Carryover |
予定していた学会(2017年7月に神奈川県にて開催)への参加を取りやめたため、交通費・宿泊費分に相当する金額が余る状態となった(申請者急病による入院のため)。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
関連する学会に参加する際の交通費・宿泊として用いる。
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