2016 Fiscal Year Research-status Report
シティズンシップ教育の排除性の生成構造の解明―米国教育史を事例として―
Project/Area Number |
16K17372
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
斉藤 仁一朗 東海大学, 課程資格教育センター, 助教 (80756031)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | カリキュラム / シティズンシップ教育 / アメリカ教育史 / アメリカ社会科 / 教育制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究成果は主に3点として説明できる。 第一に、20世紀初頭の初等学校への公民科導入時におけるシティズンシップ育成に関わるカリキュラム研究である。この際に、フィラデルフィアの初等公民科のカリキュラムを対象とし、(1)低学年で学習する道徳や習慣に関わる市民的美徳の教育と、高学年で学習するシティズンシップの教育とが有機的・段階的に関連づけられていること、(2)それによって、シティズンシップの脱政治化が起きていることを明らかにした。この研究成果は日本公民教育学会の『公民教育研究』に論文掲載された。 第二に、20世紀前半の公民科教科書や関連報告書におけるシティズンシップ概念に関する分析である。20世紀前半の教科書記述等において「良き市民」の理念が強調された一方で、社会的・経済的に自立した市民や、身体的に障害等の無い人々を「良き市民」として捉えようとする傾向が見られたことを明らかにした。つまり、当時の「良き市民」の概念が、一定の排他性を持っていたことを意味する。この研究成果は、米国の全国社会科協議会のCollege & University Faculty Assemblyの研究大会において、研究発表を行った。 第三に、20世紀初頭の米国社会科成立期に関するカリキュラム研究史の研究である。この際には、時代と共に、歴史研究で扱われるカリキュラムの概念が変容していることを明らかにした。これは、単に定義的な問題だけでなく、分析する側の研究枠組みが変容することによって、実際の歴史解釈も変化していることを示したものである。これらの研究成果は、日本カリキュラム学会の研究大会で研究発表をすると共に、全国社会科教育学会の『社会科教育論叢』に論文掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、三年間の研究期間の初年度にあたるため、史料収集等が中心となった。ただ、その中でも、研究論文を一本、学会発表(国内1、海外1)を2回行うことができ、一定の進展はあったと言える。 ただ、当初の研究計画から考えると、史料分析と成果発表に関する進捗がやや遅れていると思われる。この点に関しては、既に収集済みの史料分析を軸としながら、平成28年度よりも多くの成果報告を行えるようにする。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、主に二つの研究を進める。 平成29年度は以下の二点を軸にして、研究を進めていく。 第一に、バージニアプランにおけるカリキュラム観やシティズンシップの育成に関する諸原理を明らかにする。バージニアプランにおいては、学校教師が参加した形でカリキュラム開発が行われており、教師の自主的なカリキュラムデザインをするための工夫が内包されていたと考えられる。本研究では、それらのプロセスや戦略がどのように実現されたのかについて解明する。 第二に、20世紀前半における社会科評価論におけるシティズンシップの性質やその評価方法を明らかにする。1930年代前後になると、生徒の態度評価や客観評価に関する様々な評価方法の開発が進んでいく。本研究では、これらの社会科評価論に内在する市民観の特徴や、何をもって市民の資質として捉えようとしていたのかという問題について、考察と解明を進めていく。
|
Causes of Carryover |
今年度の研究調査や研究成果発表に十分な研究費を既に使用済みであり、2年目となる次年度の研究に多くの研究費を使用する可能性が高かったために、今年度の残金を次年度に使用することとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、史料収集や成果発表の量・規模を今年度よりも拡大する予定である。そのため、昨年度の残金は、それらの史料収集や成果発表のために使用する予定としている。
|