2016 Fiscal Year Research-status Report
教師の協同的な省察を促す授業記録のデザインと活用法の開発
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16K17373
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
坂本 篤史 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (30632137)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 授業記録活用 / 教師の学習 / 授業分析会 |
Outline of Annual Research Achievements |
過去の授業逐語記録を活用した授業分析会を実施し、現職教員や大学研究者を含む多様な参加者の発言記録を対象として、授業分析の手法を用いて分析を行った。その結果、教師の意図を読み解く過程が先行し、一定の理解が形成された後に、子どもの学びに目を向けさせる発言が出ることで、省察の深まる過程が示された。記録を用いることで、参加者の多様な視点や経験が表出され、分析の客観性を保持しつつ、授業実践への洞察を深める可能性が示唆された。この結果は、2016年9月にイギリスのエクセター大学で開催された世界授業研究学会(World Association of Lesson Studies; WALS)で発表した。授業逐語記録を用いた授業分析による授業研究が教師の学びを促す価値についての議論や、国際的な授業研究の広がりと共に授業研究の在り方の複数化が生じている中で、日本における複数の授業研究の系譜をつなぎ合わせる研究としての価値を再確認することができた。 授業記録を用いた校内研修としての授業研究会において、ビデオ録画を用いる場合と速記録を用いる場合での協議会談話の相違について、協議会記録の比較分析会を実施した。参加者は現職教員、大学研究者を含み、多様な視点で検討した結果、授業記録の現場での活用に関し、その有効性とメディア特性、教師の学びとの関連が示された。この結果は、2017年3月に早稲田大学所沢キャンパスで開催された日本教師学学会で発表した。授業研究にも多様な系譜、目的があるため、それらとの関連性を検討する必要があるという議論があり、多様な授業研究に関する理論との接合の重要性が示唆された。また、授業記録の情報量、特にグループ学習の記録についての議論があった。授業記録の包括性と限界に関するさらなる理論的検討の必要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学校現場での授業記録の活用に関して、研究授業の写真を用いることで、授業に関する語りが伝わりやすくなることが、アンケート結果やインフォーマルなインタビューから示唆されている。授業記録の活用に関して、授業の語りや授業研究会のデザインと総合的に考察していくことが、次年度以降の研究では求められる。 専門家の助言を得て、授業研究で授業の文字記録を活用することの価値と、その活用法について示唆を得た。具体的には、映像記録だけでなく、研究授業観察中に作成された速記録の音読をすることによって議論が深まる可能性があること、他者の解釈を聴くために、授業記録を用いること、また、校内研修においては、教員間の関係性によって教員同士の多様な視点の交流や省察が阻害されることなどの知見を得た。 授業記録の活用に関して、協議会の在り方や授業研究の理論との接合に関する課題が浮き彫りとなり、当初計画より、検討すべき論点の広がりが明確となり、同時に本研究の重要性が明確になってきた。早計に実践的研究に入る前に、理論的研究をより深める必要性があることが示唆された。 一方で、大学内での授業研究会を繰り返し運用することでの、様々な実践的知見の蓄積を得てきた。第一に、記録については、映像記録と文字記録の併用が重要であるということである。文字記録があることで、映像記録では捉えきれなかった事実が捉えられると共に、事実の共有がしやすくなる。第二に、時間の問題である。一つの授業を検討する際に、場面を絞ったとしても、数名の参加者で十分な議論をするのに、授業ビデオ視聴も合わせて90分程度の時間がかかる。グループ協議の併用など、校内研修に実装するためには、記録と競技形態の連動が必要であることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として4点挙げる。 第一に、授業記録活用の実践研究の推進である。その具体的方策として、福島大学内で現職教員学生をまじえた研究会での実践的研究を本格的に実施する。本年度の実践から、一つの授業記録を部分的に検討するだけでも、多大な時間がかかることが明らかとなった。したがって、時間効率を高めるための方策と文字記録の活用、加えて、協議の形態との対応関係について検討する。例えば、グループでの協議と全体交流との組み合わせを考える際に、常に授業記録に基づく検討になるように、記録ツールの活用が媒介となる可能性が考えられる。 第二に、インフォーマルな研究会での実践研究の成果を踏まえて、学校現場に還元すると同時に、現場にローカライズするための実践研究を深めるため、学校現場の校内研究での実装を行うことである。本年度は、複数の学校の校内研修に外部講師として参加してきて、研究協力への同意を得てきた。その状況を生かし、授業研究会への指導助言を通して研究協力依頼し、実践的研究を進める。 第三に、文献レビューに関して、協議会の在り方と授業記録の活用法に関する理論構築は、手広く実施する必要性が出てきた。特に、様々な授業研究の系譜において、どのような授業が目指されており、そのためにどのような授業研究を実施していたのかという点と、授業記録ツール使用との関係について検討する必要がある。 第四に、研究成果の発表と論文化の作業を進めることである。具体的には、次年度は11月に名古屋で実施される世界授業研究学会(WALS)及び、10月に千葉大学で実施される日本教育方法学会での発表を予定している。これらでは、文献レビューまたは実践的研究の初期分析の成果を発表する。これら発表時の議論を踏まえて、教育方法学研究への論文投稿を進める。
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