2016 Fiscal Year Research-status Report
子どもを巡る科学的実践と「教育なるもの」の生成に関する思想史研究
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16K17390
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤田 雄飛 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (90580738)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 教育科学 / 科学的実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,科学による教育学への学問的影響という従来の図式からでは検討し得ない,人々の日常的な実践の領域を含めた分析を行うことで,子どもを巡る科学的知と実践の接触点において,教育的な緒言説が生起し, それが一つの価値として人間諸科学や教育的な実践を再駆動させていく回路を明らかにすることを目指している。 初年度にあたる平成28年度は,基礎研究に関わって,①科学的発見と実践との関係に関わる先行研究の整理・検討と本研究における方法論的視座の提示,②フランスの国立歴史公文書館に収蔵されている史資料の整理・分類およびその検討,の2つの作業を行った。 ①については,科学的真理の所在を巡る基礎理論として,クーンの「パラダイム」論を確認するとともに,そうした科学観とは位相を異にする科学的実践の姿をフーコーとハッキングによる「未熟な科学」という図式,さらには科学人類学のラトゥールのネットワーク概念をもとに検討することで,実践を組み込んだ科学的真理の生成を語るための基礎研究を行った。 ②については,フランス国立公文書館の史資料および19-20世紀転換期のパリに関する歴史研究をもとに,生まれたばかりの子どもを巡るネットワークとして,「殺菌された哺乳瓶」と「低温殺菌牛乳」と「はかり」という発明・発見,さらには創設期の小児医学者による「無料診断所」や「ミルク配布所」,そして「乳児託児所」や「学校」が織りなす教育的な実践の場について,「生」と「発達」という観点から検討を行った。 なお,以上の研究成果については,九州大学『教育基礎学研究』第14号(2017)において,論文「真理の生成する場についての試論ー19-20世紀転換期の子どもを巡る知の実践とその教育原理的探求ー」として研究経過報告を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究は「おおむね順調に進展している」。 本研究は主に理論研究と歴史分析の2つのセクションからなるが,まず理論研究に際しては,科学研究の分野で特に著名なクーンの『科学革命の構造』を参照することで,先行研究を押さえるとともに,フーコーやラトゥールの理論的枠組みを参照することで,基礎的方法論の構築に着手することが出来たといえる。 ただし,歴史分析については,手元にある史資料には限界があり,特に本研究において不可欠な「グート・ド・レ」と呼ばれる無料診療所に関する史資料および小児医学の成り立ちに関する歴史学研究・社会史研究が十分ではないと言える。 後者については,フランスの国立公文書館においてターゲットを絞った史料収集の必要性があると共に,小児医学一般に関わる歴史分析に関する研究書を収集し,検討する必要があることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,前年度の研究を経て明らかになった上記の課題を認識しつつ,より精緻な理論研究と知に関する歴史的な分析を進めて行く予定である。特に, 生活世界に根ざした科学のあり方を検討するために,フッサールの『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』やメルロ=ポンティの『知覚の現象学』を検討する必要がある。また,関連する史資料の収集を積極的に行うと共に,臨床医学の生成を巡る諸研究を参照することとする。 研究成果の報告については,学会や研究会の場において成果を発表すると共に,科学と実践のつながりに関する基礎研究を論文のかたちで発表する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度においては史資料について手元に所有するものを使用したため,史料収集に関わる旅費等の支出が生じなかったため,次年度使用額が生じるに至った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,史料収集に際して旅費の支出を計画している。また,これまで以上に研究成果の報告に力を入れることを目指して,学会に参加するための旅費を支出する予定である。上記の未使用額をこれに充てる予定である。
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